2010年、90歳で亡くなった京都出身の民族学者・梅棹(うめさお)忠夫さん。「国立民族学博物館」(大阪府吹田市)の初代館長を務めたことでも有名な梅棹忠夫さんの北白川の自宅には、かつて多くの人々が集い、語らった歴史があるそう。その建物を改装したギャラリーが、8月末にオープンしました。
「当時のわが家は、それは面白かったですよ。朝、起きて居間に行くと酔いつぶれた学生さんが何人か床に転がっていたりしてね(笑)」と懐かしそうに語るのは、梅棹忠夫さんの次男で陶芸家のマヤオさん。
1960年代、梅棹忠夫さんは自宅の居間を開放し、若者が集う場を設けていました。学生を中心に、学者、ジャーナリスト、作家といった多彩な人々が酒を酌み交わしながら深夜まで議論していた様子は、当時まだ10代だったマヤオさんにとっても忘れがたい光景のよう。
そして、その集いは“梅棹サロン”と呼ばれるようになっていきました。
“梅棹サロン”の舞台であった旧邸が、写真などの作品展示をするギャラリー「rondokreanto(ロンドクレアント)」としてオープンしたのは8月29日のこと。
設計にはマヤオさんも携わり、築80年以上の建物を約2年かけて改装。梅棹忠夫さんが若いころに自ら張った床や造園家と共作した中庭などのしつらえは残しつつ、マヤオさんが陶芸家として各地のギャラリーを利用した経験を反映させ、利便性にも富んだ施設を完成させました。
ギャラリー名は、梅棹忠夫さんが好んで使ったエスペラント語で、集まりを意味する「rondo」とクリエーターを指す「kreanto」を合わせた造語。人文、科学、芸術といった垣根を越え、人々が集う“梅棹サロン”の精神を引き継いだ場にしたいとの思いで名付けたそう。
「見返りなどなくても何かをつくり出し、考えを深めていく根源的な喜び、つくりあげたものを伝える醍醐味(だいごみ)を味わう機会が昨今は減っているように思います。絵画、工芸、写真、学術研究の発表、ポエトリー・リーディングや音楽ライブ、パフォーミング・アート、旅の報告会、茶会…。町中のリベラル・アーツがここに集い、交歓することを夢見ています」(マヤオさん)
ギャラリーにはカフェやキッチン、茶室も併設。今後はクリエーターと鑑賞者との交流の場なども積極的につくっていきたいそう。詳細はホームページ(http://rondokreanto.com)やフェイスブックでチェックを。