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考えていますか?60歳以降の〝年金空白期間〟のこと

「老後は悠々自適に楽しみたい」。それなら、退職してから公的年金の受給開始までの間、「収入がないから生活に余裕がない」という事態は避けたいものですね。そんな〝年金空白期間〟のやりくりについて、年金を取り巻く事情も合わせて考えてみましょう。

希望者の雇用を原則65歳までは継続

社会保険労務士
冨宅正洋さん
「50歳以下の人は、年金の支給開始年齢がさらに引き上げられる可能性が高いことも視野に入れておいてほしいですね」

10月1日に施行された「被用者年金一元化法」。これにより、公務員が加入する「共済年金」とサラリーマンが加入する「厚生年金」が統一。2つを合わせて「厚生年金」と位置づけられたことで、公的年金は、この「厚生年金」と、自営業や主婦、学生などが加入する「国民年金」の2制度へと変わりました。

公的年金の支給開始年齢は段階的に60歳から65歳へ引き上げられているため、60歳で退職すると“公的年金の空白の期間”が発生することに。この状況に対応するため2013年4月に施行されたのが、「改正 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)です。

「希望した人については、原則65歳まで雇用を継続することを企業に促す法律です。しかし、労働時間や待遇などがそれまでと同じとは限りません」と社会保険労務士の冨宅(ふけ)正洋さん。年金制度に詳しい冨宅さんは、全国社会保険労務士会連合会が委託を受けている「街角の年金相談センター 京都オフィス」で、さまざまな老後の相談に対応しています。

収入ダウンをフォローする給付金

「60歳以降も同じ職場で雇用継続、もしくは他の職場に再就職した場合でも、60歳のときの収入を下回ることが多いようです。そのため、雇用保険では、賃金が60歳時点の75%未満の被雇用者に“高年齢雇用継続給付”(※)を行っています。対象は60歳から65歳未満の人。ほかにも受給要件はありますが、賃金プラス給付金で、年金空白期間の5年間の生活はカバーできそうです」

※高年齢雇用継続給付は、「高年齢雇用継続基本給付金」と、基本手当を受給し60歳以後再就職した場合に支払われる「高年齢再就職給付金」とに分かれます。雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給されます。問い合わせは居住する地域のハローワークへ。

年金を受け取りながら働く場合は?

60歳以降、働きながら年金を受け取る場合、給料と年金月額の合計額が一定額を超えると、年金が全部または一部がカットされる「在職老齢年金制度」が適用されます。
具体的には、給料(前年度の賞与の12分の1含む)と年金12分の1の合計額が、60歳~64歳は28万円、65歳以上では47万円(平成27年度)を超えると年金がカットされます。

繰り上げ受給はデメリットに注意を

一方、60歳以降は働かなくても年金を繰り上げ受給すればいいと考えている人もいるかもしれませんね。それには、「ひと足早く年金を受け取れる半面、デメリットもあります」と冨宅さん。

冨宅さんによると、繰り上げ受給のデメリットは3つ。1つめは、繰り上げた月数により0.5%ずつ年金額が減額され、減額された年金が一生涯続くこと。「丸5年間、つまり60カ月繰り上げると30%も減額されます。一度請求すると年金の金額は変えられません」

2つめは、病気やけがなどによって障害の状態になったときに支給される「障害年金」が請求できない場合があること。「この年金が申請できるのは原則として65歳までとなります。年金を繰り上げ受給した人は、“65歳に達した”とみなされるため、請求ができないことがあるのです。障害年金は、場合によっては一生涯、支給されることもあるので、慎重に検討したいところです」と冨宅さん。

3つ目は、「遺族厚生年金」を65歳まで受給できない場合があること。

「例えば、厚生年金に加入している期間がある夫が死亡した場合、要件を満たしていれば、妻に遺族厚生年金の受給権が発生し、その時点で申請できます。しかし、妻が年金を繰り上げ受給している場合は、65歳までは遺族厚生年金と繰り上げた年金の両方を同時に受給できません。〝繰り上げした老齢年金〟か〝遺族厚生年金〟のいずれか、多い方の年金を受給することになるのです」

ただし65歳以降は、遺族厚生年金と〝繰り上げした老齢年金〟の両方を受給できます。

冨宅さんは、「収入の状況が大きく変化する60~65歳の生活を安定させるのは大切です。しかし、そのために、さらに年を重ねたときの生活が不安定になる心配もあります。老後の生活に対する価値観は人それぞれですが、もし、60歳以降に働くチャンスがあるなら積極的に活用してほしいと思います」

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