怪談に登場するなど、ちょっと怖いイメージもある井戸。身近な寺社にも、伝説や由来のある井戸が残っています。歴史上の人物の逸話、不思議な伝承など、奥深い話が伝わっているようです。
式神を使うなど、平安時代の陰陽(おんみょう)師・安倍晴明にはさまざまな伝説がありますね。「晴明神社」にある「晴明井」も、その力を伝えています。
なんでも、井戸の水は晴明の念力によって湧き出たもので、病気平癒の御利益があるといわれているのだとか。水の流水口が向いているのは、その年の恵方。“吉祥の水”が出るように、毎年立春に方角が変えられます。
小野小町ゆかりの「隨心院」。門を入って右手、梅林の横の竹やぶの中にあるのが「化粧の井戸」です。
およそ1200年前、付近は小町の邸宅だったと考えられていて、朝夕、この井戸で化粧をしたのだといいます。まずは井戸水でおしろいを溶かして肌を白く塗り、水を鏡代わりにして顔をチェック。そんな小町の様子が目に浮かぶよう。小町の美しさに、一役買っていたのかもしれません。
家と家の間にある、小さな戸。入っていいの?と戸惑いそうですが、参拝は自由。細い路地を進むと、命婦稲荷社が見えてきます。
こちらの「鉄輪の井戸」にまつわるエピソードは、謡曲「鉄輪」のもとになったともいわれます。恋人に裏切られ、丑(うし)の刻参りをした女性。復讐(ふくしゅう)を試みるものの果たせず、この井戸に身を投げたのだとか。悪縁を断つ〝縁切り井戸”としても信仰を集めています。
源氏の始まりである六孫王を祭る「六孫王神社」。その子孫を見れば、源頼朝、足利尊氏など、名だたる武将が。
境内にある「誕生水弁財天社」は、六孫王の子・満仲誕生の際、井戸の上に弁財天を祭って安産を祈願したもの。産湯として使われた井戸は「誕生水」と呼ばれ、京都の名水の一つとして知られてきたとのこと。〝武士のはじまり”といわれた満仲の誕生の地で、源氏のルーツに思いをはせてみては。