1ページ目で紹介したように、自律神経は自分の意志でコントロールできません。そのため、不調を改善する手段として心がけたいのが「毎日決まった時間に食事をし、就寝・起床すること」と八木田さん。規則正しい生活が体内時計のリズムを整え、ひいては交感神経と副交感神経の働きを調整することにつながるそうです。 ここでは、運動と食事面で気を付けておきたいことを紹介しましょう。
健康な体づくりのためにも大切な運動。自律神経の働きにも、運動は重要なかかわりがあるようです。
立命館大学スポーツ健康科学部教授の浜岡隆文さんは、「一般的に、活発に動くときには交感神経が、ゆっくりするときには副交感神経が働いています。体の状態で、交感神経と副交感神経のスイッチの切り替えが変わります」
体の状態とは、筋量や血流、代謝のこと。
「体を動かしたり、運動をすると血流がよくなりますね。これは、血管の内側にある細胞から、血管の太さを調節する平滑筋の拡張物質が放出されるため。血管が拡張して血液が流れ、血圧が正常に保たれます。この状態は、交感神経の働きが下がって副交感神経が活発になるのと同じです」
では、どんな運動がよいのでしょうか。
「おすすめは早歩きです。会話しながら息が弾む程度のスピードで。心拍数でいうと、若い人で1分間に130、中高年で120程度が目安です。それを1回20分~1時間、週3回、3カ月続けると持久力のある筋肉ができてきます。その結果、毛細血管が増え、血流がよくなり、代謝が活発になるというわけなんですね」
運動をする際の注意点は?
「息を止めたり手をぐっと握ると、交感神経の働きが強くなり血圧が上がってしまうので注意を。上半身に力を入れ過ぎず、運動後はストレッチなどで筋肉を動かし、末端にいった血液を心臓へ、さらに脳へ戻すことも心がけてください」
息が弾む程度の早歩きなら、毎日の生活に取り入れやすいかも。まずは1カ月を目指して、とのことですよ。
食生活でも、交感神経や副交感神経の働きにアプローチできそう。
龍谷大学農学部准教授で食品栄養学が専門の山崎英恵(はなえ)さんは、精神状態を変える食品について被験者を使った実験を重ねてきました。
「アンケートと同時に、心拍の変動から自律神経の活動を計測。飲食による被験者の気分変化と、交感神経や副交感神経への影響をみることができました」
食品の成分の中でも香りの成分は、自律神経に影響を与えるものがいろいろとあるようです。
「リモネンという香気成分を含んでいるグレープフルーツやユズは、交感神経の働きを活発にします。シナモンは、交感神経の活動を穏やかに上昇させる働きが。水にサンショウの香り成分を溶かしたものを飲むと副交感神経の働きが上がり、ポジティブな気分になるという結果が得られました」
交感神経の活動が上昇中の朝、グレープフルーツを食べれば、より交感神経が刺激されることになるわけですね。
他にも、かつお節と昆布のだし汁は、穏やかに交感神経の活動に働きかけ、自律神経全体の活動を高めることが分かっています。緑茶に多く含まれるアミノ酸の一種、L―テアニンは、副交感神経の働きを活発にし、リラックス効果などがあるといわれているそうです。
「自律神経と気分は密接にかかわっています。食品による影響を自覚しておくと、気分の切り替えにも役立ちますよ」
40代以降の女性にとって、更年期障害は気になる話題ですよね。
50歳前後で閉経を迎える女性の体は、更年期に入ると女性ホルモンの分泌が急激に減少。この年代の頭痛や肩こり、のぼせ、冷え、不眠、不正出血といった不調は、女性ホルモンが急激に減ったために自律神経の働きが乱れて起きる更年期障害の場合が多いのだそう。
「更年期の年代は、子どもの教育や親の介護、夫婦関係の変化など深い悩みを抱えやすい時期。これが、身体的な不調と重なり症状が悪化したり、うつなど深刻な状況に陥ってしまうことも珍しくありません」
最初は急激な女性ホルモンの減少に対応できない場合でも、いずれは状況に慣れて症状が落ち着いてくるそう。
「ただし、女性ホルモンが減ったままで放置しておくと、今度は老化が問題に。場合によっては治療として女性ホルモンを補うことが、自律神経に支えられた体を大切にすることにつながります。ひいては、生活の質にもかかわることを覚えておいてほしいですね」