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本が生み出す〝人とのつながり〟

読書といえば一人の世界に浸ってゆっくり楽しむもの。いえいえ、それだけではありません! 街には、本をたくさん置いたブックカフェがあったり、本に関連したイベントも多く開催されています。そんななかで注目したいキーワードが、〝つながり〟。本を介して人とつながれる催しや活動を紹介します。

「ビブリオバトル」への参戦者が増えています

〝人〟を知ることができるのが魅力

「ビブリオバトルin伏見」は、月に1回開催。
毎回テーマを設定、今回は「△」。これを「さんかく」ととらえたり、形からイメージしたり。発表者はさまざまな本を紹介していました。開催日時や会場などは、facebook
https://ja-jp.facebook.com/bibliobattle.fushimi)で確認を

ある土曜日の午後、京都市伏見青少年活動センターで、20人ほどを前にして本を片手に語る男性が。「これは、闘病記でもありますが、カタツムリの研究日記としても読むことができるんです」

こちらは「ビブリオバトルin伏見」という催しのワンシーン。

“ビブリオ”とはラテン語由来の言葉で本のこと。「知的書評合戦」とも呼ばれる「ビブリオバトル」の内容はというと、まず複数の発表者がおすすめの本を見学者に紹介。質問タイムやディスカッションを経て、見学者は一番読みたい本に投票、1位の“チャンプ本”を決めるというものです。京都大学の研究室で2007年に考案され、現在は幅広い年代が参加して各地で開催されています。

ジャンルは小説でも、実用書でも何でもOK。発表者は5分という持ち時間のなかで、ネタバレすれすれまであらすじを話したり、ここに共感したというポイントを解説していきます。

「ビブリオバトルふしみ」の代表・益井博史さん。「ビブリオバトルは、本が好きなら誰でも参加できますよ」

冒頭のカタツムリの話をしていた男性は、ビブリオバトルに参加していた5人の発表者のうちの1人で、「カタツムリが食べる音」(飛鳥新社)というノンフィクションを紹介。この日のチャンプ本に選ばれました。

イベント終了後に見学者に話を聞くと、「自分ではあまり読まないような本にも興味がわいてきました」(20代女性)、「いろいろな観点から発表されているのが良いですね」(60代男性)との声が。

主催している「ビブリオバトルふしみ」代表の益井博史さんは、「ルール上、チャンプ本は決めますが、そこはあまり重要ではないと思っています。本を知ると同時に、本を通して推薦者の人となりを知ることができるのが、ビブリオバトルの魅力です」と話します。

小学生も、思いをしっかり発表

(上)京都市中央図書館の玄関ホールで行われたビブリオバトルの小学生大会。この日は、「情熱思考」(中経出版)、「天才たちの発明・実験のおはなし」(PHP研究所)、「おおかみこどもの雨と雪」(角川書店)が取り上げられました

(右)京都市中央図書館・司書の松尾一代さん。「本を通じて友達との仲が深まるといいなと思います」

「ビブリオバトルは、ゲーム性があって、みんなで楽しく読書の世界を広げることができます」と、京都市中央図書館司書の松尾一代さん。同館でも、不定期ですがビブリオバトルが開催されています。取材に訪れた日は小学生大会。発表者は京都市立西陣中央小学校5年生の3人です。

開始前、3人の小学生は、続々と集まって来た見学者を前にやや緊張気味。ですが、いざスタートするとハキハキ、そして堂々と本に対する思いを発表。感動した一節を読み上げたり、どんな感想を持ったかを述べたり。メモも見ずに話す姿からは、好きな本への思いがこみあげてくる様子がうかがえます。

発表を終えた感想を聞くと、「上手にできたかは微妙だけど、自分の力を出し切った」と満足そう。他の人が紹介した本について、「最初は難しいかなと思ったけれど、話を聞いて読みたくなった」と、さらに読書の意欲が湧いてきたようです。

寝転がって本を読んでも、ここならOK

京都大学大学院工学研究科の教授・門内輝行さん(中央)と、大学院生の髙木雄貴さん(右)、酒谷粋将さん。赤いテーブルは、テントウムシがモチーフ。中央には穴が開いているんですよ!

学校の図書室と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか。本がギッシリ詰まった背の高い書棚、整然と並んだ机といす。そして私語は厳禁。

そんな、“いかにも”という図書室からほど遠い造りなのが、京都市立洛央小学校の「ブックワールド」です。簡単に動かせる台形のテーブルに、いろいろな高さと色のいす。床にはグリーンや水色のカーペットが敷かれ、天井からは自然光が差し込んで…と、とても自由な雰囲気です。

このブックワールドは、有隣教育財団の寄付を活用して、今年3月に完成。昨年の夏から、当時の6年生と、京都大学大学院工学研究科の教授・門内(もんない)輝行さんと研究室の学生とがプロジェクトを組み、ワークショップを重ねてつくり上げたものです。子どもたちの要望がいっぱい詰まった夢の図書スペースです。読んだ本の内容を発表したり、映像を鑑賞するスペースもあります。


空間全体のコンセプトは、「未来・宇宙」「自然・原っぱ」「暮らし・住まい」 ※一般の見学・利用はできません

「机で本を読むこともできるし、寝転がって読むこともできる。また、本をテーブルに持ってきて読むこともできるし、軽いいすを本棚のほうへ持っていって読むこともできます。いろいろな読み方ができることで、本を読む子どもが増えるのでは」と門内さん。

子どもたちの反応はどうですか?

「ブックワールドができて、友だちと一緒に本を読む子どもが増えました。この空間をどんなふうに使うかということをワークショップで話し合うなど、みんなの意識がこの空間に向いていると思います」(同校校長の森江里子さん)

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