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初個展「前田トミ子・常富のゆかいで優しい世界展」を開催

絵を描くことが大好きな93歳と91歳の夫婦(北区在住)の個展が、孫のバックアップを受けて開催されます。熱心に絵筆を持つ2人のもとを訪ねました。

70歳過ぎから始めた「ガラス絵」に熱中

子どもやかわいらしい題材が好きなトミ子さん(左)、被写体の気持ちを考えながら描くという常富さん(右)。「2人にはこれからも描いていってほしい」と中井さん(中央)

ガラス板に、油彩絵の具を使ってフリーハンドで絵を描き進める、おばあちゃんこと前田トミ子さん(93歳)。緋毛せんに座るお内裏さまとおひなさまの周りに、モモの花びらを丹念に描きこんでいきます。トミ子さんがこの〝ガラス絵〟を始めたのは、70歳を過ぎてからのこと。娘夫婦が主宰するアトリエ・薬師山美術研究所で手ほどきを受けたのだとか。

ガラス絵は、ガラスの片面に絵を描き、もう片面側から鑑賞するアート作品。トミ子さんが描いているガラスの反対の面を見てみると、おひなさまの姿が。トミ子さんの耳元で、孫の中井敦子さんが「おばあちゃん、このおひなさま、かわいいね」と声をかけると、職人のように厳しい表情をしていたトミ子さんに笑みがこぼれます。

中井さんは、水彩画、イラストを描く一方で、子どもの絵画・造形教室も主宰。今回の個展の企画者です。

「おばあちゃんの作品は、色彩感覚や構図の置き方などまねできないくらい素晴らしい。作品をめでるように描く今のおばあちゃんは、ゆるやかに認知症が進み、耳が聞こえにくくなりましたが、昔、西陣織の帯の織職人をしていた経験が生きているのかもしれません」と中井さん。

心の中でイメージした風景を描きとめた常富さんの水彩画

自作の短歌を絵にしたトミ子さんの作品

一生懸命な妻、ユーモアたっぷりの夫

描きだすと止まらないくらい集中するトミ子さんの作品は、すでに2000点を超えているそう。その日の気分に合わせて素早く書き上げていく、常富さん

「おばあちゃんが一生懸命、無我夢中で描いているのが、いい」

おじいちゃんこと前田常富さん(91歳)は、トミ子さんの隣でスケッチブックに水彩画を描きながら、時折、妻の方に静かに目をやります。ガラス絵に熱中するトミ子さんのために、自宅にアトリエを作ったという常富さん。若いころから絵や書をたしなみ、周囲の人に数えきれないくらい自筆色紙をプレゼントしてきたそう。

「おじいちゃんの水彩画は、筆に迷いがなく、被写体の特徴をよくとらえています。それだけではなく、絵から伝わるユーモアやおかしみも魅力です」

2人の絵に懸ける思いを見てきた中井さんは、「こんなに絵が好きな2人の作品だけを紹介する個展を開きたい」とずっと考えていたのだとか。

個展への意気込みを常富さんに尋ねると、「私は絵を描くことが好きだけど、恥を〝かく〟のはもっと好き。笑ってもらいたい」と、ニカッと笑顔で答えてくれました。トミ子さんも「うれしいです」と個展を心待ちにしているよう。

「夫婦そろってセンスがよく、同じことが好きだなんてうらやましい」と中井さんをはじめ、家族から称賛されるトミ子さんと常富さん。会場には、2人の新作約60点が展示される予定です。

「前田トミ子・常富のゆかいで優しい世界展~ふたりで184歳、おおきに~」=6月17日(火)~22日(日)午前11時~午後6時(最終日は午後5時まで)。6月17日・22日は前田夫妻在廊。入場無料。会場はギャラリー翔(左京区北山通下鴨中通東入ル北側/地下鉄「北山」駅から東へ徒歩2分)。問い合わせは薬師山美術研究所=TEL:075(4922)3440。

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