京都大学桂キャンパス近くの森の中に、ヒノキの間伐材を利用した舞台が完成しました。空を仰ぐこの場所で、どんな音が聞こえるのでしょう。
舞台を作ったのは、NPO法人京都土の塾のメンバーたち。大原野の荒廃田を開墾し畑を作っている同塾は、竹に侵食されたこの森を再生するために、所有者である京都市と協定を締結。竹の伐採を始めました。
ある日の作業が終わったとき、「森の雰囲気に触発されて歌ってみたんです」とメンバーの奥村美保さん。「そうしたら、奥村さんの歌声がすごく響き、心地よくて疲れも吹き飛びました」と、同塾・副理事の玉井敏夫さんはそのときの感動を語ります。
「この森の音響効果を生かしたコンサートをしたい、そのための舞台を作りたいと思ったんです」(奥村さん)。西山にヒノキの間伐材が放置されているという話を耳にし、ヒノキが譲り受けられることを知って「これで舞台を作ろう! 話は一気に本格化しました」。
約2年間、山から間伐材を運び出すところから、舞台の建築、完成までほぼ全てを人力で対応。これまでに延べ600人がかかわったのだとか。「やるならとことんやろうというのが、私たちの気持ちの根底にありますね(笑)。自然の中で手間暇かけた仕事をすると、不思議と力がわいてくるんですよ」(玉井さん)
「この舞台の素晴らしさを、ぜひ体感してみて!」
取材時、記者にそう言って、作業に来ていた塾のメンバーがギターの伴奏に合わせ、歌を披露してくれました。観客席は、山の緩やかな傾斜を利用し間伐材をイス代わりにしたもの。その間を吹き抜ける風のように、歌声が広がっていきました。「観客席の前の方は、生の声。後ろの方は、周囲の竹林に反響して聞こえる声なんですよ」
ふと足元を見ると動物の足あとが! 「作業中も、シカやサルなどいろんな生き物の気配をいっぱい感じていました。〝響きあういのちの舞台〟と名づけたここは、マイクやアンプなどの音響設備は一切使いません。機械の力に頼らず、人間も自分の体ひとつで表現するのが一番似合う場所」と奥村さん。玉井さんも、「いろいろなコンサートなど、ここを利用して大人も子どもも森に親しみ、五感を磨く場所にしたいですね」。
そして、企画したのが「響きあういのち~野生の森のコンサート~」です。パンフルート(植物の茎などを使った管楽器)の岩田英憲さん、バリトンの𡈽野研治さん、ソプラノの牧野元美さん、朗読の栗山かおりさん、尺八の岳人山さんのソロを中心にしたプログラムが予定されています。童謡「山の音楽家」さながらの世界が楽しめそうですね。