天王山の中腹にある、アサヒビール大山崎山荘美術館。地元・大山崎町やその近隣に住む人はもちろん、全国からも観光客が訪れるという同館が、6月6日にリニューアルしました。いったいどんな点が変わったのでしょう?
5月中旬に行われた、桂高校の生徒たちによるノシバの植え付けの様子(提供/桂高校教諭・片山一平さん)
桂高校の生徒たちが植えたノシバ。青々と茂るのはこれからですが、成長が楽しみですね
木立の中、幾重にもカーブする坂道を上ると見えてくるアサヒビール大山崎山荘美術館。最初に目に入ってくるのは、実業家・加賀正太郎さんの邸宅だった本館です。外国の絵本に出てきそうなたたずまいのこちらは、今からちょうど100年前に着工され、当時、大山崎山荘と呼ばれていました。
今回のリニューアルでは、この本館の北側に新しい建物が登場。建築家・安藤忠雄さんの設計による「夢の箱」と名づけられた多目的スペースです。
本館とつながった渡り廊下を通って行くと、“箱”というネーミングの通り、直線的なラインが印象的な建物が。よく見ると、天井の照明まで四角形です。
「当館には、開館時に建てた安藤忠雄さん設計の円柱形をしたスペース『地中の宝石箱』があります。丸と四角、異なる形を楽しんでください」と同館スタッフ。
現在「夢の箱」は、展覧会の展示スペースや講演会場として使用されており、これらが地元の人たちの生涯学習に役立てばという思いもあるそう。
そして今回のリニューアルに伴い、同館に新たに登場したものがもう一つ。それが「夢の箱」の周辺に桂高校(西京区)の生徒たちが植えた「ノシバ(野芝)」です。
ノシバとは日本に古くから自生する固有種で、これまであまり注目されなかったこともあり、交雑・消滅が進んでいるといいます。
夢の箱周辺に植えられたのは、桂高校の研究班の生徒たちが奈良市の若草山で採取し、DNA鑑定の結果1000年以上自生してきたと証明されたもの。自然が豊かでありながら、外来種の芝が周囲にない環境が、ノシバの生育に適しているということで植えられました。
夢の箱の設置とノシバの植栽、どちらにも地元の人に役立ちたいという思いがにじみます。
アサヒビール大山崎山荘美術館本館。2階のテラスからは木津川、宇治川、桂川が望めます。リニューアルに伴い、エレベーターが設置されました
本館と「夢の箱」をつなぐ渡り廊下(上。下は外から見たところ)。大山崎山荘時代は、持ち主の加賀正太郎さんの趣味のランの栽培のための温室(現存せず)と邸宅をつなぐものだったそう
「夢の箱」。7月25日(水)までは、「美の再発見」展(前期)の展示などが行われています
1996年に開館したアサヒビール大山崎山荘美術館。前述した通り、この本館は実業家の邸宅でしたが、美術館として生まれ変わった背景には地元の人たちの思いが関係していたそうです。
「1990年ごろ、天王山山麓に大規模なマンション開発が計画されていたのですが、地域の自然や大山崎山荘の建物を守りたいと地元の人や京都府が声を上げました。その結果、アサヒビールが大山崎山荘を買い取り、美術館としての保存が決まったのです」(スタッフ)
地元の人たちの思いをきっかけに生まれた美術館。それだけに、リニューアルにも「地元密着」の思いが盛り込まれているのですね。
現在、「夢の箱」完成を記念した美術展「美の再発見―アサヒビール大山崎山荘美術館の名品より―」を開催中です。所蔵作品を中心に約100点を展示。大山崎山荘の建てられた時代の芸術家たちの交流がうかがえる内容です。