「歌は、人の心と体を元気にする可能性を持っています」と話すのは、プロ歌手であり、ヒーリング音楽アドバイザーの中森万美子さんです。中森さんは、歌を歌うことには3つの働きがあると考えているそう。
その一つ目が、“発散”。
「言葉ではうまく言えず気持ちがモヤモヤするとき、『あ、この歌、今の私にぴったりくる』って思うことがありますよね。それは、歌の中に自分の気持ちをあらわす何かが含まれているから。その歌を歌うことで、自分の思いを理解し、歌にのせて発散できるんです」
二つ目は“美的感覚の満足”です。
「美的感覚というと、一般的には美しさを感じ取る感覚のことですが、私はもっと大きく捉えていて、好ましいと感じ取れることだと思っているんですね。好きな歌を歌っているときって気持ちは安定しているもの。これは好ましい状況です。ですので、好きな歌を歌うことで、自分の美的感覚が満足させられると考えているんです」
そして最後は“コミュニケーション”です。
「一人で歌うときも、もし伴奏者がいればその人と、合唱ならほかのメンバーと、気持ちを合わせることが必要になってきます。これがコミュニケーション。誰かと一緒に歌を歌うと、その人とすごく仲良くなれるんですよ、不思議と(笑)。人と人をつなぎ合わせる力が歌にはあるんでしょうね」
プロの歌手として、普段から歌漬けの生活を送る中森さん。身をもって感じる歌の力もあるのでは?
「本来、私、“気にしぃ”なんです(笑)。でも、歌を歌っていると、歌に集中するから悩み事も忘れてしまいます。で、歌い終わったら、悩んでいたことも『まぁ、しゃあないか』って。私には意識の切り替えのツールにもなっています」
認知症患者の“自信”にもつながります
「神経内科」では、認知症の患者のために音楽療法を用います。 幼稚園や保育園では“歌”がつきものです。ということは、子どもの成長にも歌を歌うことはかかわりがあるのかも…。そんな疑問に京都女子大学 児童学科の深見友紀子さんが答えてくれました。
「子どもにとって、歌を歌うことは日常の生活であり、遊びの一つ。歌うことで息を吸ったり吐いたりすることは、発声器官の発達を促します。
また、言葉や音声の模倣でもある歌は、言語力の育成にも役立つと考えられます」
大人が一緒に歌う時間も大切と深見さん。
「大人の口まねをすることで、次第に口や舌の動きがスムーズになり、正しい発音の仕方を習得できます。『アイアイ』などのように、掛け合いをする歌もいいですね。『どっちが先に歌おうか?』などと、コミュニケーションを取れるので、子どもも楽しんで歌いますよ。親子で歌うときには、『この歌って、どういう気持ちで歌えばいいんだろうね』などと会話をするのもおすすめ。歌詞の意味を理解することで、情緒豊かな、表現力のある子どもに育つのではないでしょうか。それから、歌うときに身振りをつけるのもいいですね。歌詞の理解に役立つだけではなく、身体能力の発達にもつながります。
いずれにしても、私たち大人は、歌が日常にあふれるように心がけたいもの。物を数えるときも『いーち、にーいっ、さーん、しーいっ』と抑揚をつけたり、何かできたときは、『でーきた、できた』と大げさに表現するだけでも構いません。幼児期のこうした環境が心身の成長や発達にかかわってくるんですよ」
では、子どもが歌うときの注意点はありますか。
「よく『元気よく歌いましょう』といいますが、それは決して大声でどなることではありません。歌を通じて自分を表現し、周りの人とコミュニケーションを取るには、自分の声をきれいに響かせて、周りと声を合わせることが大切。そのことに気付かせてあげてくださいね」