伝えていくための工夫、増えています これからの京都の“技”

伝えていくための工夫、増えています 
これからの京都の“技”

できあがりを頭の中でイメージしつつ、配色を指定する小糸さん。「経験と感性が要求される一番難しいところです」

中堅技術者を応援!

京都市の新しい賞「未来の名匠」


行政でも伝統産業の継承を支える数多くの取り組みが。中でも京都市では、本年度から新たに「未来の名匠」という賞を創設。後述の「伝統産業技術功労者顕彰制度」より一世代若い、60歳未満の技術者が対象職人です。
第1回の受賞者は10人。その中から、今回は「小糸染芸」の小糸太郎さんを山科区の工房に訪ねました。

こんな複雑な柄を、何枚もの型を使い分けて描いているのだから驚くばかり。「お客さまに『こんな着物見たことがない』と言っていただくのが楽しみです」

型で染める京友禅 小糸太郎さん

京友禅には手描き友禅と型友禅がありますが、小糸染芸は型友禅を専門とする140年余りの歴史ある工房。小糸太郎さんはその5代目です。
小糸染芸には、古いものも含め9000以上もの絵柄が保管されています。「新たに作る必要はないのでは、と言われたりするんですが、うちはオシャレ着である小紋が専門。守るだけではなく、流行をつくる必要があるんです」。現在絵柄をデザインするのは小糸さん。「代々受け継がれてきた〝小糸らしさ〟は守りつつ、次世代へも残せるものを意識して制作しています」
デザイン画をもとに、色や線の太さ別に何枚もの型紙を作成。「型紙は昔から技術の高さで有名な伊勢と、京都の職人さんにお願いしています」。1つの絵柄に1000枚以上の型紙が使われることもあるのだとか!

型を布にあて、鹿毛のはけで染料をしみこませていきます。これを型紙を変えて繰り返すことで、一つの図柄が完成

代わりのきかない技術が強みに

「染織には女性のイメージを持つ方もおられますが、型友禅は完全に男性社会。もち米とぬかで大量の友禅のりを練ったり、35㎏ある友禅板を持ち上げたりと、力仕事が多いためです。のりや染料は機械でも作れますが、どうしても仕上がりに違いが出てしまう。すべての工程にいえることですが、機械で印刷されるものは勘や経験がなくてもできるけれど、手作業のものは代わりがきかない。そんな作る人の心や背景を感じられるような製品を作って、差別化を図っていきたい」
子どものころから後を継ぐつもりだったという小糸さん。今、長男の良典さんも美術系の学校に進もうとしているそう。「型紙ばかりか、はけや友禅板も作り手がいないので、これからは何でも自分でできるようにならないと。私が歩んできた道より相当険しいものになるでしょう。もうかるかどうかではなく、男の仕事として人生をかける心意気なら、継いでもらいたいです」

塩のみで“下漬け”しておいたヒノナを洗う竹田さん。この後さらに白しょうゆベースの調味液で1週間ほど漬け込みます

従来の顕彰制度に食品部門も

京都市の「伝統産業技術功労者顕彰制度」


京都市では、昭和42年から、長年京都の伝統産業に貢献してきた技術者を表彰する「伝統産業技術功労者顕彰制度」を設けています。こちらは30年以上の経験のある、60歳以上のベテラン職人さんが対象。平成19年度から「京菓子」「京漬物」「京料理」「清酒」の食品部門も加わりました。
本年度、京漬物部門で表彰された、「京つけものタケダ」(中京区)の竹田勝一さんを訪ねました。

小カブはこんなに厚く皮をむくのですね!「“障子が張る”と表現しますが、表皮の下に薄い繊維があるんです。それが口に入ると舌触りが良くないので」

「安定した質の漬物を」 竹田勝一さん

店頭には千枚漬けをはじめ、ミズナやダイコン、赤カブの漬物、奈良漬、梅干しまで、数十種類の漬物がずらり。
取材当日は、滋賀産の野菜「ヒノナ」を洗う作業中でした。作業に使うのは井戸水。真冬でも13度ほどあり、水道水に比べると温かみがあります。でも立っていると、足元からしんしんと冷えが。そういえば、作業場も売り場にも暖房器具がありません。「漬物は温度変化に弱いですから」と竹田さんはさらり。

中央のピンク色とその左が「日野菜漬」。手前の「黄金漬」は甘いながらも後から唐辛子がピリリ。香りの良い「柚子大根」や季節の「菜の花漬」も。お店は竹屋町衣棚角です

「そのままで食べたときの味とは違う野菜の味を引き出せるのが漬物の醍醐味。時間とともにどんどん味は変わるので、おいしさがピークに達したときにお客さまの口に入るよう考えて作っています」。季節により温度や野菜の水分などが変わるため、その都度塩度などは調整しているそう。
作業を行うのは竹田さんと、4代目となる息子の尚樹さんの2人。大量生産ができないため、デパートやスーパーへの卸はしていません。「安定した質のものを少量ずつお届けするという理念で、先代からの教えを守って作っています」




富小路三条を上がったモダンなビルの1階。外国人客も多いそう

現代生活になじむ伝統産業品がいっぱい

京都デザインハウス

「京都デザインハウス」には、私たちの日常生活にすっとなじむような、現代的センスを備えた伝統技術を生かした品々がいっぱい。“和のセレクトショップ”として人気の同店に、どのようにこれらの商品が選ばれているのか尋ねました。
「ジュエリーブランド『俄』代表の青木敏和をはじめ、グラフィックデザイナー、建築家として第一線で活躍する京都の3人のクリエイターが当店の“目利き”です。長い歴史の中で培われてきた伝統工芸の“生活の知恵”を生かしつつ、現代生活でも使えるデザインのものを念頭において商品をセレクトしています」と広報担当者。

お店で一番人気の「おはこ」(京あめ550円、こんぺい糖580円、チョコ豆600円)。ふたの版画は300種類以上も! ちょっとしたお礼やお土産にいいですね

「截金」で装飾の施された名刺入れ

中には職人と共同開発したオリジナル商品も。「金箔を糸のように細く切り、2本の筆を使って木目に張り付ける『截金(きりかね)』という仏像装飾の技法があります。これをモダンな名刺入れにアレンジしたものは定番人気ですね」。
ほかにも和傘の骨組みを応用したランプシェードや、友禅の技法による繊細なしま模様が美しい「しけ引きストール」など見ているだけでも発見がいっぱい。価格帯が幅広いのも魅力です。

 

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