ホーム > > コレ読んで!

コレ読んで!

うたうおばけ

くどうれいん 書肆侃侃房・1540円

歌人がエッセーでつづる〝ともだち〟との日々

「ぼた雪の降る様子を『もっつもっつ』とあらわす方言があるので岩手に住んでいてよかった」

この一文だけで、太平洋沿岸で育ち、雪といえばただ〝雪〟である私は「もっつもっつ」と降る雪を感じに岩手に行きたいと思う。歌人である著者の周りには抱きしめたくなるような〝ともだち〟とシーンが東北の澄んだ空の星たちのようにキラキラと存在する。失恋して喪服でラーメン屋に来たミオ、〝ウニの上〟で働くおりょう、たまたま見かけたナンパ現場の思わぬ結末。今すぐ忘れたいほどの失敗も喜びも、著者の言葉の前では等しくいとおしく、心地よい。

日々の一瞬一瞬、一言一言を大切に書き留めたくなるようなエッセー。

【紹介者】
マヤルカ古書店 なかむらあきこさん

希望(きぼう)のゆくえ

寺地はるな 新潮社・1650円

さまざまな印象を抱かせる弟の真実の姿とは

放火か事故か、とにかくぼや騒ぎに関わった可能性のある弟・希望(のぞむ)が姿を消した―。

兄の誠実(まさみ)が、面倒なことに巻き込まれていくところから物語は始まります。女性と失踪してしまった弟の行方を捜し、関係のあった人々を訪ねますが、それぞれが語るのはまるで異なる弟の印象。弟はどこにいるのか、一体どんな人間だったのか…。人々の記憶と思いが交錯します。

実の息子に「希望さん」とよそよそしい呼び方をする母と、疎遠になってしまってから目にした弟の生活を悲観しつつも、兄らしいことをしてやりたいという誠実の思い。何とも表現しがたいですが、リアルな描写が読む手を止めません。

【紹介者】
大垣書店 小林素紀さん

このページのトップへ