歌手・俳優 前川清さん
「導いてくださった方々に、これからも仕事で応えたい」
直立不動の姿勢で数々のヒット曲を歌う一方、独特のひょうひょうとした表情と、どこかとぼけたような語りや芸風で、人気を保ち続けている、歌手の前川清さん(71歳)。今年で芸能生活51年目を迎えました。近年は特に俳優としての風格が加わり、活動のジャンルに広がりを見せています。3月は大阪・新歌舞伎座で、藤山直美さんと共演。2月中旬、その稽古の真っ最中に直撃インタビューしました。
大阪・新歌舞伎座三月特別企画の第一部「恋の法善寺横丁」は、小料理屋のおかみと板前との、ままならぬ恋模様を描く、人情物語。前川さんが扮(ふん)しているのは、ちょっとワケアリの板前・徳三。
最近では、俳優として独特の味わいを見せている前川さんですが「芯のしっかりした本格的なお芝居です。僕にとっては、初めてのジャンルなので、日々、緊張感を持って取り組んでいます」。
第二部は「前川清オンステージ」。
歌手としては、「内山田洋とクールファイブ」のリードボーカルとしてメジャーデビューし、「長崎は今日も雨だった」が大ヒット。
「少年時代に佐世保の米軍基地から聞こえてくる、ジャズやオールディーズなどの洋楽になじんでいたからか、僕らが歌うのは、歌謡曲でありながら、そのハーモニーが、洋楽風になっていました。これもヒットの要因の一つなのでは」と前川さんは言います。
「僕は、これまで、“みんな~、俺の歌聞いてくれ、俺の歌で元気になってくれ”っていう気持ちで歌ったことは、実は一度もないんです。いつも一生懸命、淡々と歌いながら、今、ちゃんと歌えてるのかなあ、っていう不安の方が大きい」
その、押し付けではない謙虚さと、持ち前の人懐っこさを生かし、最近では、大阪の路地を歩いて、そこに住む人々と触れ合うという番組にも出演。
「突然ピンポンって訪ねるので、『今、化粧してへんからアカン!』と怒られたりもしますが(笑)、大阪の方々の、圧の強さと素晴らしいノリは、さすがだなあと感心します。もし京都だったら絶対ムリ! 京都は、伝統ある特別な街ですからね、気安くは出てもらえないのでは」
おっくうなことをすると勉強になるんです
前川さんは今、競走馬のオーナーで、ニシキゴイも飼育中。
「お金がかかる趣味なんですよ(笑)。でも、馬の勝敗の楽しみや、ニシキゴイを卵から育てることで、心身が癒やされます。趣味を持つことはいいですよ」
最近、大人タノシ世代以上の人たちに、感じることがあるそう。
「男性は、まず頑張って外に出ましょう。外に出るためには、身なりにも気を使うし、誰かとあいさつをしなければいけません。おっくうだと思うことを実行すると、それだけで学ぶことが多い。
女性は、ほんのりお化粧したりして、いつまでも女性としての華やかさや、恥じらいを失わない人をすてきだなと思いますね」
前川さん、これからの仕事については―。
「これまで導いてくださった方々に、どういうふうに応えていこうかと思っています。今回の舞台もそうですし、福山雅治さんに作っていただいた曲を、どう歌ってみようかとか。僕の原点でもあるオールディーズなども、楽しんで歌っていきたいですね」
(文・あさかよしこ )