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試写室・劇場から

喜劇 道頓堀ものがたり

11月5日(火)まで京都・南座で上演中

浪花の濃密な人間模様を、粋と心地よい猥雑さで描く

明治から大正にかけて、大阪随一の芝居街・道頓堀には、五座と呼ばれる五つの劇場が並び、にぎわっていた。芝居好きの田舎出の娘・お徳(藤山直美)は、ひょんなことから、芝居茶屋の女将(三林京子)の計らいで、芝居茶屋の案内係、お茶子として働くことに。やがて憧れの歌舞伎役者・菊之助(喜多村緑郎)と夫婦になり、菊之助を“中座の華”にするために、叱咤(しった)激励し、尽くし抜く。しかし、菊之助には、病魔が忍び寄り。

過去何度も上演された名作で、独特の心地よい笑いに加え、業界の濃密な人間模様、忍び寄るように訪れる時代の波など、「喜劇」というよりは、むしろシリアスなバックステージ劇である。

林与一、鈴木杏樹、松村雄基をはじめ、河合雪之丞など幅広いジャンルの芝居巧者たちにより、作品に厚みが加わっている。さらに、劇中劇として歌舞伎の人気演目の名場面「封印切」が、そっくりそのまま演じられるというぜいたくさ。藤山直美がしみじみと演じる、ラストシーンの粋な演出も、また秀逸である。

(文筆業 あさかよしこ 

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