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試写室・劇場から

九月花形歌舞伎「東海道四谷怪談」

南座にて9月26日(木)まで公演中

左から中村七之助、片岡愛之助、市川中車

愛之助・七之助・中車の顔合わせで魅了する怪談劇の名作

浪人・民谷伊右衛門(片岡愛之助)の妻・お岩(中村七之助)は、父を殺した犯人が、実は伊右衛門であるとは知らず、ひたすら彼に尽くし抜く。しかし欲に目がくらんだ伊右衛門に裏切られる。毒を盛られた上に、無残な死を遂げたお岩は、やがて亡霊となって復讐する。「仮名手本忠臣蔵」のサイドストーリーとして描かれた、あまりにも有名な、この怪談劇の名作が、関西では実に26年ぶりに上演されている。

この舞台の一番の魅力は、単なるホラーではなく、お家断絶となり、追い詰められた元家臣たちの無残な業が引き起こす、哀れな人間ドラマとして描かれているところ。さらに、愛之助の非情な「色悪」ぶり、本能のままに生きる直助(市川中車)の生々しさ、お岩を演じる七之助の、ただただ哀れな風情と、復讐を決意した時の女のすごみが胸を打つ。

このとびっきりの顔合わせの妙に加え、歌舞伎ならではの様式美、戸板返し、提灯抜け、お岩のほかに二役演じた七之助の早変わりなどのトリックもまた、見どころである。

(文筆業 あさかよしこ 

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