彼が愛したケーキ職人
12月15日(土)から京都シネマで公開
大切な人の突然の死が、出会うはずのない男女を結ぶ
映画が終わって外へ出た時、周囲の風景が今までと違って見える。これが、優れた映画と出会った後の至福感だ。本作も、そういう一本。なんて繊細で美しく、なんて切ないことか! だが、つらくても前を向いて生きようとする人々を優しい目でとらえている。
ベルリンに住むケーキ職人トーマスは、イスラエルからたびたび仕事でやって来るオーレンと恋に落ちる。オーレンには、母国に妻も子もいるのだが、つかの間の幸せをかみしめていた。だが、帰国したオーレンが事故で亡くなったことを知ったトーマスは、悲しみを抱えつつ、愛しい人の街エルサレムに行き…。
文化や風習が異なる街で、オーレンの面影を探すトーマスの姿が痛々しい。オーレンの元妻アナトが営むカフェで働き始めるトーマスの心情の機微を、オフィル・ラウル・グレイツァ監督は、抑制のきいたタッチでみごとに伝える。トーマス役の新星ティム・カルクオフやイスラエルの名優たちがすばらしく、情感豊かなピアノ音楽とラストシーンも忘れがたい。
(ライター 宮田彩未 )