立ち去った女
12月16日(土)から京都みなみ会館で公開
濃密で美しいモノクロ映像が、不条理な生を照らし出す
3時間48分の大作と聞いて、かなり身構えてしまったが、長さを感じずに、ヒロインの物語にどっぷり浸り込んだ。フィリピンの〝怪物的映画作家〟と呼ばれ、世界の映画祭でも受賞を重ねているラヴ・ディアス監督の最新作。年末の忙しい時期だが、特異な映画体験をしてみては?
1997年、30年もの年月を刑務所の中で過ごしてきたホラシア(チャロ・サントス・コンシオ)は、真犯人の自供によって、やっと釈放される。だが、夫はすでに亡くなっており、息子は行方不明。つらい現実を受けとめつつ、彼女は復讐(ふくしゅう)の旅に出る…。
トルストイの短編に着想を得た本作は、定位置から撮影される1シーンの長さが特徴的だ。そのため、主人公と同じ空気を吸いつつ進展をながめているような気になる。社会の底辺でうごめく人々、彼らに目を向けるホラシアの慈愛、いやされないものを抱え続けた人間の、生との向き合い方。そして、思わぬ結末。何かすごいものを見せられた、という思いでいっぱいになる。
(ライター 宮田彩未 )