とりつくしま
東直子 ちくま文庫・648円
死んでしまった後、モノになって大切な人に再び会えるとしたら?
「とりつくしまがない」という言葉の意味には、相手がつっけんどんで話しかけるきっかけがない、頼るものがないといったものがありますが、この本の場合は間違いなく後者。
思いがけず死の瞬間を迎えてしまった人たちに、優しく語り掛ける「とりつくしま係」。この世に未練があるなら、何かモノになって戻ることができますよ、と。大切な人に会いたいという思いが、マグカップや補聴器など命のあるもの以外のモノとなり、再び心の安息を求めて旅立ちます。
その命が消えることによって、人という形はなくなったとしても、思いは残るもの。春にふさわしい優しい涙があふれる物語です。
【紹介者】
大垣書店四条店 小林素紀さん
大垣書店四条店 小林素紀さん
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