しゃぼん玉｜試写室・劇場から

©2016「しゃぼん玉」製作委員会

すさんだ過去を黙って受けとめ未来へと向かわせた人の情

乃南アサによる小説を、映画初監督の東伸児が、一つずつ石を積み上げていくような丁寧な描写で映像化。みごとな役者たちにも恵まれ、見た後、長く胸にとどまる印象的な作品である。

通り魔や強盗傷害を重ね、泥沼の生活をしてきた翔人は、ある夜、見ず知らずの女性を刺してしまう。長距離トラックに乗り込み、転がり落とされたのは、宮崎県の椎葉村だったが、彼はここでスマという名の老女と出会う。ひょんなことから、彼女の家で居候生活をすることに…。

一人暮らしのスマは、同居生活を始めてからも、どこの誰ともわからない翔人に何も問わない。時おり彼に投げかける「坊はええ子じゃ」という言葉が温かな日だまりをつくるだけ。やがて、地域の人たちに鍛え直され、翔人はある決断にたどり着く。

市原悦子演じるスマから目が離せなくなる。やっぱりすごい女優さんだなと思う。翔人役には人気上昇中の林遣都。日本三大秘境の椎葉村のたたずまいや祭りの風景、郷土料理にも注目して！

（ライター 宮田彩未　 ）