湯を沸かすほどの熱い愛
10月29日(土)からT・ジョイ京都、京都シネマで公開
余命2カ月の母の決断が、 血縁を超えた家族に残したもの
町の銭湯として愛されていた「幸の湯」だったが、あるじが蒸発してしまったため休業、妻の双葉はパートに出ながら、16歳の一人娘・安澄と暮らしていた。ところがある日、双葉はパート先で失神し、運ばれた病院で末期がんだと知らされる。衝撃を受ける双葉だが、落ち込んだままではいられない。彼女には残された時間のうちに、何としてもやらねばならないことがあったのだ。
自分の運命を受け入れ、持ち前の明るさと勝ち気さで、周囲の人間を巻き込みながら“宿題”をクリアしていく母の姿が鮮やかに描き出される。この映画には、母性を求めながら母を失っていく者が何人もいて、家族という枠組みの中で母親が示す存在感について改めて考えさせられる。それは、血がつながっているかどうかだけが重要視されるものでもないのだ。
大きな試練を与えられながら、ふれあう人々に光を投げかける双葉役に宮沢りえ、どこか頼りない夫の一浩を演じたのはオダギリジョー、また、安澄役の杉咲花ほか若手演技陣にも注目したい。お話の展開上、クライマックスはやや感傷的なところもあるが、大切なものを失っても前を向いて生きてゆける人の姿にすがすがしさを感じた。監督は、京都府育ちで、本作が商業映画デビューとなる中野量太。
(ライター 宮田彩未 )