牡蠣工場(かきこうば)
5月7日(土)から京都シネマで公開
過疎の町で繰り広げられる
人々の営みに社会の縮図を見る
ある意味、とても地味な世界を描いたこのドキュメンタリーがなぜすこぶる面白かったのか。“現実はドラマよりも奇なり”なのだなと感じたからだ。むろん、観察映画というくくりで数々の作品を発表してきた名手・想田和弘監督の深いまなざしと、鍛えられた編集術によるところは大きい。おいしいカキが生まれる現場に“開眼”させられ、工場を取り巻く人々の暮らしが何ともいとおしく思われたのだった。
舞台は、日本のエーゲ海と呼ばれる風光明媚(めいび)な岡山県の牛窓。だが、多くの問題を抱えていた。過疎化、少子高齢化、労働力不足、東北大震災の影響、そしてグローバル化。広島に次ぐカキの名産地である岡山だが、この牛窓に約20軒あったカキ工場も今は6軒のみ。そのうちの一つ、平野かき作業所では東北から移住してきた渡邊さんが跡継ぎのないこの工場を引き継ぐことになった。カキむきの繁忙期、人手不足のため、中国人労働者を受け入れることにしたが…。
ひたすらカキの殻を取り除く作業、その背後から立ち上ってくる人の営みのたくましさに圧倒される。富や名声が飛び交う派手な世界ではない。だが、その小さな世界や庶民と呼ばれる人々こそが、この社会を大きく支えているのだと思わないわけにはいかない。
(ライター 宮田彩未 )