舞台「放浪記」
12月9日(水)まで、大阪新歌舞伎座にて公演中
仲間由紀恵ら新キャストが好演これは、新しい「放浪記」
男に恋しては捨てられ、またほれては裏切られるという、多情多感な生活の中で原稿用紙に筆を走らせ続け、その放浪の半生を経て、女流文壇の流行作家の地位を得る林芙美子。
本作は、その林芙美子を仲間由紀恵が演じる、新生「放浪記」である。昭和36年の初演以来、故・森光子のライフワークとなった、この作品に、こだわりや強い思い入れのある観客にとっては、いささか複雑な思いがあるかもしれない。だが、実に新鮮ですがすがしい舞台に仕上がっている。
男たちとの切ない別れ、恋敵であり物書きとしてのライバルでもあった日夏京子(若村麻由美)との確執と不思議な友情。女給として働くカフェで、お盆を手に踊る“安来節”。喀血(かっけつ)した同僚ののどに詰まった血を吸い取ってやる機転と優しさ。小説「放浪記」が活字になったときの、デングリ返しならぬ側転を披露して喜ぶかわいさ…など、独特の情感の中に、貧乏に対する怒りと、コミカルな風味、そして一つまみの毒を盛り込んで芙美子を演じる仲間由紀恵の、自然な役作りに好感がもてた。また永井大、村田雄浩、羽場裕一をはじめ、他の出演者たちも一新。今後、さらに熟成させながら、芝居上の垢(あか)や澱(おり)で奥行きをつけていくことを期待させてくれる。
(文筆業 あさかよしこ )