サイの季節
8月8日(土)から京都シネマで公開
映像の詩人から届いた新作は、時を超えた愛と憎しみの歴史
イラン政府の許可なしで撮影した前作「ペルシャ猫を誰も知らない」以来、亡命を余儀なくされているバフマン・ゴバディ監督が、実話をもとに作り上げたのがこれ。はっと目を奪うような美しく繊細な映像でつづられるのは、理不尽な人生を強いられながらも、それぞれに思いを貫き通した男女の姿である。
クルド系イラン人詩人のサヘルは、イラン・イスラム革命後、妻のミナとともに不当に逮捕されてしまう。その背後に、ひとりの男の暗い影があった。ミナに横恋慕しているアクバルである。ミナは10年で釈放されたが、夫のサヘルは30年もの年月を監獄で過ごすことになる。そして、やっと刑期を終え、ミナの行方を探すのだが…。
政治体制によるえん罪で人生を一変させられる人々がいるということ、それは何とひどいことだろうか。監督の悲痛な怒りが生々しく伝わってくるようだ。時代を行き来しながら展開する物語を追ううち、サヘルとミナの切り裂かれた夫婦愛が悲しく、決して受け入れられないアクバルのゆがんだ愛もまた悲しくなってくる。イランのベヘルーズ・ヴォスギー、イタリアのモニカ・ベルッチ、トルコのユルマズ・エルドガンという名優3人の競演と、重量感のあるドラマをじっくり味わってほしい。
(ライター 宮田彩未 )