追憶と、踊りながら
6月13日(土)から京都シネマで公開
悲しみや孤独を超えて、母が真実を受け入れるまで
失われたものは常に美しい…とは限らないのだが、人はそう思いたい。そう思うことで、ひととき現実から逃れ、かけがえのないものの記憶に包み込まれるから。
この作品は、カンボジア生まれの新進監督ホン・カウによるものだが、なんて繊細で、なんて悲しくて、なんてきれいな映像世界なのだろう。
カンボジア系中国人女性のジュンは、ロンドンの介護施設で暮らしている。彼女の楽しみは、優しい青年に成長した息子のカイが訪問に来てくれること。でも、ジュンは、なぜ息子が自分を施設に入れたのかといぶかっていた。そして、カイの突然の死の後、リチャードという青年がジュンのもとを訪れる。ある秘密を抱えながら、彼女の世話を焼き始めるが…。
詩を映像で表現したかのような冒頭のシーンにまず見とれた。追憶の影が色濃い部屋の風景、そこに李香蘭が歌う名曲「夜来香」が流れている。詩のような映像は他にもあって、たびたび登場するカイの姿は各人の思い出の中のカイである。幾通りものカップルが踊るシーンで物語は終わるのだが、その残像は見た者の目に長くとどまり続ける。アジア映画界で伝説の女優と呼ばれるチェン・ペイペイと、イギリスのベン・ウィショーの好演が光る。
(ライター 宮田彩未 )