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インタビュー

俳優 榎木孝明さん

1956年鹿児島県生まれ。劇団四季を経て1984年NHK朝の連続テレビ小説「ロマンス」で主役デビュー。
以後、映画「天と地と」、ドラマ「浅見光彦シリーズ」、舞台「その男ゾルバ」「リア王」などで活躍。
絵と旅を好み、アジア各地を中心に世界の風景を描き続けている

大器晩成型といわれたけれど 本当の開花は、還暦からかな

絵、古武術、旅、本業の俳優業はもちろん、次々と新しいジャンルや興味をいだいた事柄に取り組み、その奥行きを深めてきた榎木孝明さん。1990年、話題を呼んだ角川映画「天と地と」の上杉謙信役で注目されて以来、実直な人柄と高潔なイメージで根強い人気を保ち続ける榎木さんが、いま新たにチャレジしているのは、時代劇再生運動。まもなく50代最後の誕生日を迎える彼が、いま思い描くのはー。



晩秋の太秦東映撮影所。フジテレビ系ドラマ「浅見光彦シリーズ」(原作・内田康夫)の撮影中の榎木孝明さんを訪ねると、役柄の刑事局長らしく、ビシッとしたスーツで登場。現在は、主人公の兄・陽一郎を演じていますが、実は32歳から47歳まで、主人公の光彦役で人気を博していました。

が、11年前、その役を現在の光彦役・中村俊介さんに譲っています。当たり役といわれた“光彦”を卒業することになったいきさつを聞いてみると―。

「私は、昔から、幕引きの大切さというか、去り際の潔さということに、こだわりを持っておりますので、“そろそろ…”と肩をたたかれてからやめるよりは、惜しまれて去る方がいいかなと思いまして(笑)。とても愛着のある役でしたが、私が辞めることで、後輩にチャンスもありますからね」

その榎木さんは、同じく東映撮影所で撮影中の、来年放映の新春ワイド時代劇「大江戸捜査網2015 ~隠密同心悪を斬る!」(テレビ大阪)にも出演します。時代劇に強いこだわりを持つ榎木さんの役は、北町奉行・町村典膳。しかし─。

胸に秘めた〝たくらみ〟。もっと時代劇をー

ここ数年の間に、映画やテレビから、本格的な時代劇がどんどん姿を消しています。

「時代劇がなくなるということは、時代劇に関わるあらゆる技術や職人の技、そして時代劇だからこそ伝えることができる、日本人の美学や礼節を、次世代に継承していくすべが、極端に少なくなるということでしょう」

こんな思いから榎木さんは、数年前に“時代劇再生運動”を立ち上げ、それが今、少しずつ動き始めています。その一環として2010年、かねてから温めていた映画「半次郎」を企画しました。この映画は リーマンショックの直撃を受けながらも、関係者全員の熱意によって上映にまでこぎつけ、単館上映ながら手堅い評価を受けています。

そうして今、榎木さんの胸の内にあるひそかな“たくらみ”を教えてもらいました。

「まず、時代劇を日本文化の一つととらえ、政府主導型で年間10本の時代劇を作る。
二つ目は、京都郊外の豊かな土地や、その地の歴史的建造物、古民家、廃校に息を吹き込んでの、一大時代劇村構想。町起こしにもつながりますね。
三つ目は教育。日本人の忘れかけた精神や、眠っているであろう人間の潜在能力を目覚めさせる、古武術などの学校を作ること」

これらは決して夢物語ではなく、俳優・榎木孝明の集大成となる構想かもしれません。

「若いころに“貴方は、大器晩成型です”といわれたことを信じているんですが、まだそこに至っていないので、本当の開花はまだ…。還暦からかな(笑)」

(文・あさかよしこ

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