消えた画(え) クメール・ルージュの真実
9月27日(土)から京都シネマで公開
素朴でユニークな土人形が、カンボジアの悲劇を語り始める
映画監督のリティ・パニュは、壮絶な体験をした人だ。1964年にカンボジアのプノンペンに生まれ、大虐殺の暗い歴史をカンボジアに刻みつけた極左武装組織クメール・ルージュにより、両親や親しい人たちを失った。13歳の時に強制労働キャンプから脱出してフランスに移住、映画作りへの道を歩むのだが、彼の悲しみや怒りは決して去ることがない。
そんな思いをこめた本作なのだが、非常に変わった技法を用いている。過去の映像も出てくるが、それよりも多く登場するのが、監督自身が丹精して作り上げた土人形である。それも、犠牲になった人たちが葬られている土から作られたという幾つもの人形。動きはしないし、ことばを発することもないのだが、いつしか我々はその人形たちに目をこらし、声にならぬ声で叫んでいるのではないかと、ふと耳を傾けていることに気づく。
ドキュメンタリーと呼ぶにはかなり異色で、ダイレクトなメッセージをそのままぶつけてくるわけではない。ある意味、静かな映画だ。しかし、その静けさの何と重く、悲しいことか。クメール・ルージュを率いたポル・ポトの笑顔の、なんとコワいことか。現代でも、生きる権利そのものさえ奪われている人たち、彼らの“消えた画”にも思いは広がっていく。
(ライター 宮田彩未 )