落語家 桂 米團治さん
芸のこと、自分自身のことが やっとわかってきた
多才な若手落語家として、注目と人気を集めている桂米團治さん。モーツァルトに造詣が深く、自ら〝モーツァルトの生まれ変わり〟と公言し、各地で弦楽四重奏団などと共演。オペラと上方落語を組み合わせた「おぺらくご」を確立しました。今年、55歳を迎えた節目にチャレンジするのは、自身が考案し、これまで公演を重ねてきた「おぺらくご」の京都バージョン。中堅としての落語家人生に、また新たな足跡を刻みます。
米團治さんの色紙には、驚くほど美しい筆跡で「形はかるく 想いはおもく」としたためられています。その端正な容姿や、一見、明るく軽やかな活動ぶりから、いかにも環境に恵まれた御曹司のイメージを持たれがちですが、実は彼にとって、その「形はかるく」と背中合わせになっているのが「想いのおもさ」。“人間国宝・桂米朝”の長男として生まれ、優れた兄弟子たち(桂枝雀、桂ざこばほか)と家族同様に暮らす生活の中での微妙な居心地。
「落語界は、世襲ではありませんし、僕はシャベリがあまりうまくなかったので、おやじは、僕が落語家になることには、むしろ反対でした。ところが、OSK出身の母は僕ら三兄弟のうち、誰か1人ぐらいは落語家になってほしかったようで。僕は母にマインドコントロールされていたのかもしれません(笑)」。この母の存在と、兄弟子たちの助言があって、今の自分があるのだといいます。この夏、その母・絹子さんが他界。
「母が元気な時には、何かと反発し合うことも多かったのに、あちらへ行かれたら、ありがとう、ありがとうという、感謝の気持ちでつながるんですよ。不思議ですねえ」
僕ができること、落語でオペラを身近に
高校時代、モーツァルトの生家を訪れた時、不思議な懐かしさを感じました。以来、自らモーツァルトの生まれ変わりと名乗るようになりました。
そうして、「自分ができることで、もっともっとオペラを身近に感じていただけるように…」と、オペラと落語をシンクロさせた「おぺらくご」を考案。20年ちかく前から公演を続けています。
「おぺらくご」は、桂米團治さんが自身のおかれた環境の中から、独自に切り開いてきたオリジナルの芸。
55歳を迎えた今年、これまでの「おぺらくご」をさらにグレードアップさせた、新生「おぺらくご『フィガロの結婚』」にチャレンジします。舞台は、初の試みとなる京都芸術劇場・春秋座。先代・市川猿之助(現・猿翁)が理想の粋を集めて設計監修した、本格的な歌舞伎の舞台です。
3時間近いオペラを30分に集約し、米團治さんの絶妙の語りに加え、京都フィルハーモニー室内合奏団と、京都出身の2人のオペラ歌手の参加、さらに舞台で花道や回り舞台を使用するという、京都ならでは、歌舞伎舞台ならではの特別バージョンとなります。
「55歳は、芸のこと、自分自身のことが、やっとわかってきた節目の年。だからこそできることがあるし、それがまた、これからの自信につながるような気がします」
米團治さんの“これから”は、本業だけにとどまらず、神社仏閣めぐり、古代史探究、全国の古い芝居小屋での公演など、趣味の域へも力強く広がっていきます。
(文・あさかよしこ )