怪奇小説という題名の怪奇小説
都筑道夫 集英社文庫・463円
現実と物語が混じり合い、混沌(こんとん)とした世界へ
主人公は売れない小説家。あれこれ考えあぐね、さまざまな側面から長編怪奇小説を書き始めますが…、やはりそう簡単には書けない。実体験を基に試してみたり、果ては盗作までしてみたり。
彼が小説を書くにあたり、参考文献として使用した海外文学作品が挿入されているのですが、その物語と彼の“今”が混同して、重きはどちらに置かれているのかさえわからなくなるほどのリアルな物語です。
死んだはずのいとこにそっくりな男に遭遇するシーンや、妖艶な表現のひとつひとつが、主人公が生きている時代背景を物語っています。とらえどころのないストーリーですが、どこか懐かしさも感じる一冊です。
【紹介者】
大垣書店四条店 小林素紀さん
大垣書店四条店 小林素紀さん
()