複製された男
T・ジョイ京都で公開中
自分にうり二つの人間と出会う、刺激的で不条理なミステリー
大学で歴史を教えている独身のアダムは、恋人との関係も、日々の生活もマンネリ化していたが、ある日、驚くべきことに遭遇する。同僚から勧められた映画DVDに、自分とそっくりの男が出演しているのだ。居ても立ってもいられなくなったアダムは、彼について調べ上げ、直接会ってみたいという願望を抱くが…。
ポルトガル出身のノーベル文学賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説を映画化したもの。冒頭の怪しげな会員制クラブの場面から一転、平凡なアダムの日常へと移行し、そして、ドッペルゲンガー(分身)のような存在が出現するあたりから、緊張感がどんどん高まる。もし、同じようなことが起きたら、その正体を知りたいと思うのは、アダムだけではないだろう。
この映画に明確な答えはなく、見た者がさまざまに想像をめぐらす余地を残している。随所に出てくる象徴的なクモや、特にあっと思わせるエンディングの意味は深遠だ。『私という自己は、確かに存在している』という固定観念に揺さぶりをかける哲学的な問題をはらみ、ビジュアルの印象も強烈だ。全く異なるタイプの二役を繊細に演じ分けたのは、ジェイク・ギレンホール。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。15歳未満は観賞できないR15+指定。
(ライター 宮田彩未 )