家路
3月1日(土)からMOVIX京都で公開
わが家とは? 命とは? 福島で生きる家族を見つめて
そこに自分が慣れ親しんだ土地や家があるのに、帰りたくても帰れない。そういう状況下に置かれた人々をさまざまな報道で知るけれど、実際の私たちの日常を考えれば、東北と関西はなんて遠いのかと思う。だが、淡々と一つの家族を描いたこの映画を見終わった時、その距離が縮んだようだった。思いを寄せること、忘れないこと。それしかできなくても。
震災後、福島の警戒区域に指定された農村の家に戻ってきた青年・次郎。彼はどこか楽しそうに土を耕し、作物を育てようとしている。一方、母親が異なる兄の総一は、次郎の母と妻、娘の3人と共に仮設住宅で暮らしている。総一は失ってしまった土地や家への無念さを抱え込んでいた。この兄弟が再会した時、新しい家族の形が生まれ始めようとする。
“土”が印象的だ。次郎が愛情を注ぎ込む土は、生命の根源であり、その土から育っていこうとする若葉は、人間が仕出かしたことへの沈黙のメッセージなのか。周囲からは一風変わっていると見なされる次郎が、土そのものの言葉を伝えるかのように、いつしか周囲を変えていく。松山ケンイチ、田中裕子、内野聖陽、安藤サクラが、それぞれに味わい深い演技を披露している。監督は、ドキュメンタリー畑で腕を磨いてきた久保田直。
(ライター 宮田彩未 )