タレント 春やすこさん
自分を好きにならないと、人には優しくできない
女性漫才コンビ「春やすこ・けいこ」として、1980年代の漫才ブームのさなか人気を博した春やすこさん。現在は、情報番組やドラマなどのテレビ出演や講演活動を中心に活躍中です。そして、この数年は、メディアで自らの介護体験を語ることも。仕事の傍ら、両親を自宅介護してきた経験を通して〝ズボラ介護〟の大切さを痛感したと言います。
スラリとした長身に、華やかな笑顔。春やすこさんから発せられる〝元祖美人芸人〟のオーラに圧倒され、開口一番、「美しさを保つ秘けつは何ですか?」と、何ともベタな質問をしてしまいました。それに対する春さんの答えは「毎日をいきいきと過ごすことかな」。
「家事、子育て、介護に仕事…。やることはいろいろあっても、段取りを工夫して、自分のための時間を持ち、リフレッシュすることが大切だと思います」と。
そんな思いを強めたきっかけは、両親の介護体験だったようです。
3年前、父が寝たきりに。体力勝負の毎日に奮闘
春さんが両親との同居を始めたのは、10年前のこと。
「父は以前に患った脳梗塞がもとで右半身が不自由、母も肺が悪く、酸素のタンクを持ち運んで生活していました。そこで、自宅の新築を機に、『両親を迎えよう』と夫・娘・息子が言ってくれたんです」
当時は両親とも簡単な介助があれば十分だったそうですが、状況が変わったのは、その7年後。父・輝正さんが階段から落ち、寝たきりになったのです。
「入浴の介助も、ベッドから車いすに移動させるのも重労働。息子や母にも手伝ってもらっていたとはいえ、日に何度も70kgの体重を支えるわけですから、腰を痛めたこともあります。おむつや尿パッドの交換は3時間おき。おしりをきれいに拭き、おむつの交換が済んだところでまた便が出てしまうこともあって…。あれは泣けますよ(笑)」
プロの助言で目からウロコ。周りの力を借りればいい
体力面のきつさもさることながら、介護中、春さんを苦しめたのは「自分の時間が持てない」という思いでした。
さらに、輝正さんが寝たきりになった翌年には母・文子さんが大腿(だいたい)骨を骨折。両親の介護を一手に担い、思いつめていた春さんを救ったのは、ケアマネジャーの女性の一言だったと言います。
「『今、あなたは何がしたいですか? 介護サービスを利用して、息抜きしませんか』と。周りの力を借りて、頑張りすぎない〝ズボラ介護〟を始めてから、家族の会話が増えました。自分を好きでいられないと、心から人に優しくすることは難しいと実感しました」
昨年、父・輝正さんをみとった春さん。
「介護のコツがつかめてきたころだったので、『もう少ししてあげられることがあったのでは』と今も思います。友人からは『うちの親に何かあったときは、いろいろ教えて』と言われています。自分の経験が誰かの役に立つのなら、積極的に発信していきたいです」
(文・木下香苗 )