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試写室・劇場から

嘆きのピエタ

6月29日(土)から京都シネマで公開

©2012 KIM Ki-duk Film All Rights Reserved.

痛みを超えた“母”の慈悲
胸を揺さぶる衝撃のドラマ

小さな町工場が立ち並ぶソウルの一角。親の顔を知らずに独りぼっちで生きてきた男ガンドは、暴力的であくどい借金の取り立て屋だ。そんな彼の前に、ある日、一人の女が近づき、昔ガンドを捨てた母親だと名のる。この悲しい目をした女ミソンは、ガンドの後をつけ回して世話を焼き、極悪非道なガンドですら、母を見る息子のまなざしに変わっていく。だが、どこか不自然だ。私たちはその裏を探り出し、そして知る驚きの真実! そして、真実がわかった後の結末は、まるでギリシャ悲劇を思わせる。 ピエタとは、ミケランジェロ作で有名な、十字架から降ろされたイエス・キリストを抱く聖母マリア像。この映画へのキム・ギドク監督の思いは、その題名から、またエンディングに流れる朝鮮伝統音楽パンソリからも伝わってくる。さらに朝鮮民族の『恨』(ハン)という情念がかぶってくる。単なる恨みでなく、無念や自責を含んだ恨みこそが、ガンドとミソンを結び合わせたのだと思う。大地に刻まれる最後の赤い線は、見る者の胸にもキリキリとその印をつけるようで、きっと忘れられないだろう。チョ・ミンスとイ・ジョンジンの演技がすばらしく、2012年ベネチア国際映画祭では金獅子賞に輝いた。15歳未満は観覧禁止のR15+指定。

(ライター 宮田彩未 

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