愛、アムール
3月9日(土)から京都シネマで公開
年老いた夫婦の間を流れる
いつくしみと情愛の音楽
なんという映画だ!
その重さ、緻密さに打たれ、すぐには座席から立ち上がれなかった。そして、ジャン=ジャック・ベネックス監督の『ベティ・ブルー』を思い出し、あちらは若いカップルの壮絶さだったが、こっちは年輪を重ねた夫婦のしめやかさだなと思う。
パリの街、ジョルジュとアンヌは音楽家として共に手を取り合ってきた夫婦。ところが、ある朝、妻アンヌに異変が現れ、手術を受けるも失敗し、車いすの生活となった。「二度と病院には戻さないで」という彼女のことばに、ジョルジュは自宅介護を決断する…。
現代社会でいうところの『老老介護』のお話であるだけに切実感を伴うが、この二人のこれまでの道のりと、相手への思いの深さを印象づける。老いて病気にかかっても、き然と誇り高くあろうとするアンヌ、それをだれよりも深く理解しているジョルジュの姿が胸をしめつける。
『男と女』のジャン=ルイ・トランティニャンと、『二十四時間の情事』のエマニュエル・リヴァという、古い映画ファンには驚きの共演。それぞれ80代となった渋い演技に注目したい。娘役にイザベル・ユペール、アレクサンドル・タローが本職と同じピアニスト役で登場。名匠ミヒャエル・ハネケ監督の見るべき傑作だ。
(ライター 宮田彩未 )