ムーンライズ・キングダム
TOHOシネマズ二条で公開中
少年と少女の駆け落ちが、大人たちに旋風を巻き起こす
映画とは作り物である。でも、ここまで作り物っぽさを意識させるその裏には、鬼才と呼ばれるウェス・アンダーソン監督の周到な意図があってこそ。映画の冒頭、少女スージーが住む家の構図からして、幼いころに親しんだ厚紙製の家の模型を思い出させる。そのいかにも模型的な家から、スージーは双眼鏡で外を、つまりこっちを眺めている。映画を見ている私たちこそが、眺められているような逆方向感覚。作り物でしかない世界を引っくり返してみる、それが狙いなのだ。
1965年、アメリカのニューイングランド沖に浮かぶ小島。周囲から孤立し、変人扱いされている12歳の少年サムとスージーは、お互いにひかれあい、駆け落ちする。『ムーンライズ・キングダム』と名付けた美しい入り江に向かうが、島は大騒動に…。
少年少女の逃避行となると、思い出すのは名作『小さな恋のメロディ』だが、全く作風が違う。抒情(じょじょう)性を退けたドライなタッチだ。でも、恋の本質は昔も今も変わらないし、大人たちは子どもの気持ちに追いつけないのだな、と実感させられる。ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、フランシス・マクドーマンドほか、名優たちの豪華な共演にも注目したい異色ファンタジーである。
(ライター 宮田彩未 )