カミハテ商店
11月24日(土)から京都シネマで公開
生きる意味とは何なのか。北白川派が描く、ある老境。
京都造形芸術大学映画学科の学生と、映画制作のプロが共同して作品を世に送り出してきた『北白川派』。その第3弾の本作は、23年ぶりの主演となる高橋惠子を迎え、いっぷう変わったタッチで、生と死のはざまを見せてくれる。
山陰のとある港町。自殺の名所となった断崖の近くに、初老の千代が営む古い商店がある。彼女が焼くコッペパンと牛乳を買い求め、海辺へと足を運ぶ人々、そして、それを黙って見送る千代。「死にたい人は…死ねばいい…」そうつぶやく千代には、あるトラウマがあり…。
自殺者の残した靴を持ち帰る千代の不思議な行動。家の一角にため込まれた靴は、まるで墓標のようにも見える。言葉少なく、どこか投げやりに生きているような千代だが、牛乳配達の青年をはじめ、周囲の人間との関わりが、次第に彼女の目に力を注ぎこむ。
記者会見で「千代の闇の部分に入っていくようだった」と振り返った高橋さんだが、老けメイクもバッチリで、複雑なヒロインを存在感豊かに演じた。重いテーマだが、音楽の使い方が実に巧みで、どこかひょうひょうとした雰囲気を画面に与え、後味は、厚い雲の間から顔を出した柔らかな光のよう。あがた森魚や寺島進という個性派が共演。山本起也監督。
(ライター 宮田彩未 )