夢売るふたり
9月8日(土)からT・ジョイ京都ほかで公開
とんでもない結婚詐欺が女と男の間に生じさせた魔物
なんとまあ、夫婦がタッグを組んだ結婚詐欺のお話だ。これまで男性を主人公にした作品が多かった西川美和監督が、女性の心の機微に焦点を当てた。私も非常に好きな傑作『ゆれる』を思い起こさせる繊細な描写に、何かしらユーモアやペーソスのタッチが加わった、2時間17分の濃密なドラマである。
東京で小料理屋を営み、そこそこ繁盛させていた貫也と里子の夫婦だが、一夜の出来事が未来を一変させた。火事で店を失ったのだ。失意の貫也が、常連客だった女性と関係を持ち、さらに現金をもらったことがきっかけで、里子はある計画を思いつく。結婚詐欺だ。それが、どういう事態を招くのかも知らず…。
里子役の松たか子が怖い。特に、ラストの目線は何より怖い。明るい働き者で献身的だった妻がここまで変わるのか、と。しかし、それは、阿部サダヲふんする貫也のずるさや弱さが招き込んだもの。人間は、落ちていくとき、どれだけ落ちているのか、元いた場所からの距離を測ることは難しい。雪だるま式に大きくなる借金事情と同じ。彼らは決して根っからの悪人ではなかったのだが、それが人の世の、何とも奇妙な部分だ。悲劇でもあり、喜劇にも見える。
田中麗奈、木村多江ほか共演。15歳未満は観覧できないR15+指定。
(ライター 宮田彩未 )