Peace
12月3日(土)から京都シネマで公開
ネコ社会とヒト社会の間から
とても大切なものが見えてくる
このゆるりとした、心をなでていくような空気感はどこから来るのか。見ている間、ずっとそう感じていた。見終わって、日常の何かが少し変わったような気もした。各地でかなり好評だったらしい本作が、やっと京都でも公開される。〝観察映画〟という独自の方法論を推し進めている想田和弘監督のドキュメンタリー。音楽やナレーションを加えず、それでいて起伏があって面白い。
カメラは、岡山市にある監督の奥さまの実家に集まってくる野良猫たちの姿と、義父母が関わっている介護やヘルパー事業の現場をとらえていく。義父は妻の不満を背中で聞きながらも、猫たちにえさを与え続ける。その野良猫世界の力関係の変化と、福祉の切実な現況がいつの間にかリンクしてくるのだから、驚く。テーマを設定せず、脚本なしで撮影に入る想田監督は、「ドキュメンタリーの神様が降りてきたような体験だった」と言う。カメラ自体が物語をたぐり寄せる不思議、それは、一人暮らしの橋本さんという男性が、突然、戦争体験を語り始める場面に強く表れる。
苦難のもとにある日本。でも、生きていくには糧(かて)がいる。その糧とは、他者と共に生きることなのだ。そんな思いに抱かれ、いとおしくなってくるような、今こそ見るべき一作だ。
(ライター 宮田彩未 )