一枚のハガキ
8月13日(土)から京都シネマで公開
戦争はいかに人の生を奪うか 夏にしみ入る、名匠からの声
第2次大戦の末期、徴集された100人の兵士のうち、94人が戦死し、6人が生き残った。彼らの生死を分けたのは、上官によるくじ引きだったという、ウソのようなホントにあったお話。日本映画界では最高齢99歳の新藤兼人監督が、自身の体験をもとに描き、これが最後の作品ともいわれている。入魂の傑作をぜひこの機会に。
啓太(豊川悦司)は、くじ引きでフィリピンに赴任することになった仲間の定造から、一枚のはがきを渡される。それは定造の妻が彼に宛てて出したもの。生きて帰れないと覚悟した定造は、啓太が生き残ったら、はがきを妻に渡してほしいと頼むのだった…。
故郷に帰れた啓太だが、父親と自分の妻が駆け落ちしてしまったという事実に仰天。定造の妻・友子(大竹しのぶ)はと言えば、周囲の人間が次々に亡くなっていく不幸に見舞われている。悲惨な物語を、監督は実に淡々と語っていく。特に、徴兵された人間を「万歳!」と送り、しばらくしてその遺骨を抱えて帰ってくるシーンは、どこか戯画のようだ。どん底に落とされると笑うしかないということがあるが、その冷えた笑いの切なさから戦争へのノーがじわじわ伝わってくる。大竹しのぶがすばらしい! 目をくぎ付けにする印象深い名演である。
(ライター 宮田彩未 )