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試写室・劇場から

BIUTIFUL ビューティフル

7月2日(土)からTOHOシネマズ二条で公開

© Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.z

死が目の前にやって来た時、他者の生へと向かうまなざし

スペインの個性派俳優ハビエル・バルデムと、メキシコ出身の監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥががっぷり四つに組んだ人間ドラマ。厳しい現実の中でもがく人々の強さと弱さ、そして不確かな生を生きることの意味をじっくりと描いてみせた。

バルセロナの下町。ここには、観光客が知らない別の顔がある。アジアやアフリカからやって来る不法移民、彼らを商売にしている者たち、お酒やドラッグに引きずられる人々…。主人公のウスバルは薬物依存の妻と離婚し、複数の仕事をこなしながら2人の子どもを育てていたが、末期がんだと宣告され…。

と書くと、暗く重い印象を与えてしまうが、この映画からは、切なくなるほどの美しさが立ち上がってくる。題名は、父が娘に英語を教える場面で、娘がつづりを間違えることに由来するのだが、間違っても美しい、そういう生があるという意味なのかもしれない。父親の手と子どもの手が語り合う冒頭のシーンは、映像でつづられた詩だ。

社会の底であえぐ人々に手を差し伸べる一方、非合法の仕事に手を染め、完ぺきな父親でもない。実に複雑な主人公だが、死と向き合う最後の最後にシンプルな姿を残す。そうして、遠いはずの、彼との距離の近さを、私たちは思い知る。

(ライター 宮田彩未 

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