試写室・劇場から｜シングルマン

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いつもと違う目で見たら、世界はきっと色を変える

自分に残された時間があと１日だと知ったら、あなたは何をしますか。会いたい人に会いに行きたいけれど、きっと私は、いつもの場所でいつものように過ごすだろう。世界をいとおしく見つめ、ただただ味わいつくすだけだろう。

グッチやイヴ・サンローランの再建に貢献し、自身のブランドも持つファッションデザイナーのトム・フォードが映画監督に初挑戦。もうマイッタ！というしかない出来栄えである。繊細にして老練、かつ実に美しく、画面から一瞬たりとも目が離せない。

８カ月前に、16年も連れ添った恋人ジムを交通事故で亡くしたジョージは、今も夢に悩まされ、その傷はいえていない。だが、今日は特別な日。身なりをきちんと整え、教えている大学ではいつにも増して熱く語る。そんな彼をじっと見つめる男子学生がいて…。

特別な日と決めたとたん、ジョージと世界との関係は今までとは少し違うものになっていく。それはジョージが異なる目線を持ったからだ。このあたりを、監督はみごとな色彩感覚で描き切る。ジョージ役のコリン・ファースの陰影豊かな演技にほれぼれ！　主人公の喪失感や孤独を言葉でなく、小さな表情や体の周囲の空気感で表現している。皮肉な結末もじーんと胸を鳴らす。

（ライター 宮田彩未　 ）