好きなものに囲まれると効果アリ? 暮らしに癒やしを

2024年4月19日 

リビング編集部

新学期や新年度が始まり、なにかと気ぜわしいという人もいるのでは。そんなときこそ、リフレッシュの時間を大切にしたいですね。専門家に、〝癒やし〟の取り入れ方のヒントを聞きました。

※2024年2月にリビング読者にアンケート。有効回答数1301
イラスト/フジー

読者に「癒やされたい」と感じるタイミングを聞いたところ、「体が疲れているとき」「悩んだり落ち込んだりしたとき」「イライラしたとき」という声が多数。心身ともネガティブなときほど、癒やしが欲しくなるよう。

日常の何げないできごとで、癒やされたというエピソードも届きましたよ。いくつか紹介します。

読者に聞きました「最近癒やされたできごとは?」

お気に入りのケーキ屋のケーキを2個食べた(ATさん/42歳)

登山や釣りなど、自然とのふれあいで気分転換できた(KNさん/64歳)

孫が一日遊びに来てくれたとき。おままごと、絵本読み、公園遊びなど心地よい疲れを感じることができました(HAさん/66歳)

夫と夜ご飯を食べているとき(EHさん/52歳)

銭湯でゆっくりお湯に漬かる。家のお風呂とは違ったちょっとしたぜいたくでリフレッシュできました(NOさん/27歳)

2歳のわが子のほっぺたを見て。おもちみたいにぷにぷにしてぽってりした形(NSさん/33歳)

ランニング中に見かけたネコに声かけ。ネコの一声で、いっぱい仲間のネコが出てきました(MNさん/59歳)

推しのコンサートに行って、終わってからお友達とお茶やお食事したりして、感想を言い合います。日常のことを忘れて、みんな乙女に戻っていました(YMさん/75歳)

愛犬の肉球の匂いを嗅いだときに少し癒やされています(KFさん/34歳)

好きな小説を読むこと。コミックで表現できないところを楽しく雄大に想像しながら読んでいるとホッとする(YIさん/67歳)

スポーツジムに行っている間は運動に集中でき、嫌なことも忘れ、気分も晴れてスカッとする(FRさん/73歳)

日帰りの小旅行。いつもと違う雰囲気でスッキリしました(MTさん/41歳)

「自分を大事にするモード」をオンにするきっかけ

「効率を求めてスピード感が重視される現代。職場や家庭での役割を果たすことに振り回され、素の自分に戻る時間を取れないまま心身に負担をかけている人も少なくありません。〝癒やし〟は、そんなストレスからいったん離れ、『自分を大事にするモード』になるきっかけを与えてくれます」

そう話すのは、京都文教大学臨床心理学部の教授・濱野清志さんです。

自宅でゆっくり過ごしたり旅行に出かけたりと、何が癒やしになるかは人それぞれですが「自分にとって本当に心地よいと思うものを見つけられるとよいですね」と濱野さん。体がリラックスして安心感を覚えると、心にもゆとりが生まれるのだとか。

下記では、アンケートの回答の中から、読者が癒やしを感じることが多い「香り」「おしゃべり」「食事」「音・音楽」の四つをピックアップ。その効果や、おすすめの取り入れ方を各専門家に聞きました。

「注意したいのは、『人が良いと言ったものだから心地よいはず』と思い込まないこと。自分の感覚・評価基準に目を向け、それを大切にしてください。客観的に自分を見つめ直す機会にもなりますよ」

副交感神経に働く香りは寝る前が効果的

多くの読者から「香り」に癒やされるという回答が。京都府立医科大学大学院医学研究科の助教・渡邉映理さんが香りの効果を研究していると聞き、訪ねました。

「香り成分は鼻から電気信号として脳に伝わり、自律神経に影響を与えます。たとえばラベンダーに含まれる酢酸リナリルという成分は副交感神経に働きかけ、呼吸を落ち着かせたり気持ちを和らげる効果が。就寝前や体を休めたいときにおすすめです」

ヒノキなど針葉樹の樹皮、日本酒やワイン、緑茶や紅茶の香りも同様の効果が期待できるとか。

ミントやかんきつ類、スパイスなどの香りは「交感神経を刺激。目覚めるときや、気分転換してスッキリしたいときに向いています」と渡邉さん。自律神経が乱れがちという人は、時間帯や目的に合わせてこれらの香りを使い分けるとよいそう。

「香りは記憶と結びつきやすく、親近感を抱く人や場所の匂いを心地よいと感じることも。好きな香りは、成分にかかわらずポジティブな気分になりやすいといわれています」

読者の声

桜のフレーバーや雑貨が好き。特にお気に入りは桜の香りのアイマスクです(ANさん/40歳)

アロマキャンドルをたきながら入浴。リラックスして凝りがほぐれる感じがしました(KIさん/66歳)

子どもの匂いを嗅ぐと落ち着き、深呼吸ができるようになります(IOさん/46歳)

教えてくれたのは

京都府立医科大学大学院
医学研究科 免疫学

助教 渡邉映理さん

〝鳥のさえずり〟のような会話には安ど感を与える効果が

「友達と気兼ねなくおしゃべりしたら、癒やされた」という声も。

「会話には2種類あります。現代社会に多く必要とされる情報共有や問題解決を目的にしたものと、〝鳥のさえずり〟のようなあまり意味を含まないもの。世間話や雑談がさえずりに近いですね」とは、先ほど教えてくれた濱野さん。

「声を発すると反応が返ってくる、という他者とのふれあいは『自分の存在を受け止めてもらえた』という安ど感につながります。人と話すこと自体に、癒やしの力があるのです。このとき、話の内容はあまり関係なく、信頼できる相手かどうかがポイントに。一対一の会話はその効果が大きいといわれています」

また、悩みごとは、人と共有するだけでもストレス軽減になるとか。

「『一人ではない』『聞いてくれる仲間がいる』という感覚が大事です。それに、人の意見を聞くことで視野も広がります。話しすぎるとかえって気を使ったり苦しくなることもあるので、すべてを伝えなくても大丈夫。聞き手は、解決策より先に共感を示してあげられるとよいですね」

教えてくれたのは

京都文教大学
臨床心理学部 臨床心理学科

教授 濱野清志さん

味だけでなく見た目などでも満足感が変わります

「空腹はイライラなどストレスの要因に。満腹感を覚えることで、心も満たされます」。そう教えてくれたのは、食品に含まれる成分と神経系の関係を研究している、京都大学大学院農学研究科の准教授・大日向耕作さんです。

癒やされたいときに「甘いものを食べる」という読者もいました。

「甘いものに含まれる糖を食べると、グルコースができます。この成分によって空腹感が解消されて満腹感が高まるため、癒やしを感じやすいのかもしれません。ほかにもアルコールにはストレスを緩和する効果があります。しかし、食品成分に薬のような効果を期待し、食事だけでなんとかしようとするのは誤った考えです。取りすぎは肥満や依存症のリスクもあるので、バランスの良い食事を心がけましょう」

生理的な効果以外でも、食事は精神面に影響を与えているそう。

「人間は〝文化的なおいしさ〟の基準を持っています。味だけでなく、料理の見た目やブランドといった情報によっておいしさが変わり、満足感も変化。ちょっと良いものや高級なものを食べるのは、理にかなっているといえます。ほかにも好きなものを食べること、家族や仲間と楽しく食事することも効果的です」

食後の満足感が、癒やしにつながるのですね。

教えてくれたのは

京都大学大学院
農学研究科 食品生物科学専攻食品健康科学講座

准教授 大日向耕作さん

今の気持ちに近い曲を聴くと共感を得たような感覚に

「クラシックやインストゥルメンタルを〝癒やしの音楽〟として意識的に聴く風潮が生まれたのは、1990年前後と最近。ですが、スローテンポな曲を聴くと心拍数が下がったり、低い音や声、音の揺らぎに心地よさを感じたりする感覚は、古代から私たちに受け継がれています」と、作曲家で京都精華大学メディア表現学部音楽表現専攻の教授・小松正史さん。

おすすめは「今の心理状態に近い曲を聴くこと」だそう。「悲しいときに悲しい曲を聴くと、自分の気持ちを代弁され、共感を得たような感覚に。心がなぐさめられるのです。これを『同質の原理』といいます。その後に明るい曲や好きな曲を聴くことで、前向きな気持ちになれますよ」

耳は無意識に音からさまざまな情報を受け取ってしまうため、脳が疲れてしまうことも。

「そんなときは、歌詞のような〝意味〟を含まない、川のせせらぎなどの自然の音に耳を傾けてみて。また、あえて〝音を聞かない〟という方法も。お風呂などの静かな場所で呼吸の音に耳を澄ませ、自分の内側に意識を向けてみましょう」

読者の声

ラテンジャズ音楽会を聴きに行き、名曲の数々とノリノリの演奏でリフレッシュできました(MHさん/62歳)

ラジオの朗読で、静かに読み進めていく話し方に引き込まれる。現実逃避でしょうか、癒やされます(RNさん/66歳)

家事をするときにお気に入りの曲を流していたら、なんとなくどんどん機嫌が良くなった!(AHさん/32歳)

教えてくれたのは

京都精華大学
メディア表現学部 音楽表現専攻

教授 小松正史さん

(2024年4月20日号より)