京都の森林を守る取り組み

2024年9月13日 

リビング編集部

近年、「自然素材の家」などで木材が注目されていますね。一方、林業の人手不足や放置された森林など、課題も多いよう。森林を守り、京都の木材を活用する取り組みを取材しました。

写真/桂伸也ほか

CO2の吸収や土砂災害の防止 森林にはさまざまな役割が

北山磨き丸太を生産する同社スタッフ。取材時は、急斜面に生える北山杉の間伐作業中でした。「間伐した木材は建材のほか、端材をバイオマス燃料(生物由来の再生可能なエネルギー源)のチップに加工しています」と、米嶋さん

空に向かってまっすぐ伸びるのは、京都府の木にも制定されている北山杉。右京区京北で北山杉を使った「北山磨き丸太」の生産を行う、「米嶋銘木」を取材しました。

同社では、春に植林、夏秋に木の間伐(かんばつ)・育林、冬に丸太の生産が行われています。

「北山杉は育ちきるまでに30年かかります。間伐とは、植林した木が5年、10年とある程度育ってから間引き、木々の密度を調整する作業。日光が届きやすくなることで木の光合成が促され、地表の植物や生物も活発になって土壌が豊かになります。質の良い北山杉を育てるために欠かせないんですよ」とは、同社代表の米嶋昌史さんです。

「森林にはさまざまな役割があります。CO2の吸収・貯蓄による『カーボンニュートラル』(※)の実現、生物の多様性の保全、地面に根を張ることで雨水の貯水や土砂災害の防止にも。これらが正しく機能するためにも、健康な木を育てることが大切。最近は、花粉の出にくい品種を植えるなど、環境や暮らしに配慮した山づくりも進められています」

同社では、森林の管理が難しくなった山主に代わり、間伐や造材も行っているそう。自社の敷地と合わせて、300ha近い森林を手入れしています。

「京都は寺社仏閣や町家といった木造建築が多く、北山磨き丸太は茶室の床柱に使われるなど銘木としても有名です。京都の林業は、こうした文化にひもづいて発展してきました。森林を適切に管理することは、環境保全や防災、伝統文化を守ることにもつながります」

※温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、実質的に排出量をゼロにすること。木が吸収したCO2は、木材に加工されても貯蓄され続けます

倒したい方向の面に切れ込みを入れてから、反対側を切るそう。大きな音を立てて倒れた杉は、わずか10分ほどで4mの長さにカットされ、丸太に早変わり

林業の担い手を育成する
専門の学校もあります

高性能林業機械を使った実習

京都府農林水産部林業振興課によると、京都府の森林面積は約34万ha。総面積の74.2%を占め、国内でも森林の割合が高い地域なのだとか。戦後に人の手で植林された人工林も多く、スギ、ヒノキなどが生産され、森林資源は豊富。

しかし、林業に携わる人は統計を開始した1970年と比べ、約8割減少。そこで、人材育成のため、2012年、西日本初の林業専門の大学校「京都府立林業大学校」が京丹波町に開校。林業に興味がある高校・大学卒業者や、社会人経験者が在籍しています。学生は2年間、チェーンソーを使った伐木造材や重機での作業道作設など、即戦力となるような実習主体のカリキュラムを履修。卒業生は各地域の森林組合や林業事業体に就職し、活躍しています。その影響もあり、府内で林業に携わる人は増加傾向にあるといいます。

京都の木材を京都で活用 地産地消が森林のサイクルの循環に

地元の木材を積極的に活用する取り組みも進められています。

「木は、植えてから30年〜45年で木材として利用に適した時期を迎えます。京都府内の人工林のうち、79%がこの利用期に達していますが、林業の人手不足や新築戸数の減少などもあり、伐採・利用が課題です」(京都府農林水産部林業振興課)

木を使いすぎると自然が壊れるのでは、との心配もありますが、利用期を過ぎた木はCO2の吸収量が低下。「利用期に達した木が残り続けると新しい木が育たず、森林が少子高齢化のような状態になる」のだそう。

「温暖化対策を考える上でも、 『伐る』『使う』『植える』『育てる』というサイクルを循環させる必要があります」

京都府産の木材を利用した商業施設や宿泊施設なども増えているといいます。私たちに協力できることはあるのでしょうか?

「森林に興味を持ち、新築やリフォーム、家具を新調するときに、地元の木材を取り入れてもらえたら。食器、日用品に木製品を選ぶのもいいですね。木の地産地消は材木輸送時のCO2削減になり、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できます」

こんな場所にも京都の木が使われています

京都の木材を活用した施設は各所に。私たちが利用できる場所をピックアップしました。

叡山電車「茶山・京都芸術大学」駅(左京区)

2023年4月の駅名変更に伴い、同年11月に駅舎を改装。「人と自然をつなぐアート(技術)」をテーマに京都芸術大学の教員によってデザインされました。屋根面、ベンチなどに北山杉の磨き丸太や府内産のヒノキが使われています。

イオンモール京都桂川3階
「もくいくひろば」(南区)

2023年12月、キッズスペースとしてオープン。「木育」をテーマに、北山杉や府内産ナラ、ヒノキを使った滑り台など木製遊具が並んでいます。京都の木について学べる看板や、保護者が使う「見守りベンチ」もあり。

COCO・てらす(中京区)

「地域リハビリテーション推進センター」「こころの健康増進センター」「児童福祉センター」の3施設が2024年1月に一体化。「利用者に寄り添った、快適で心安らぐ空間に」と、内外装に京都市域の木材が取り入れられています。

西京区総合庁舎(西京区)

2024年2月、新庁舎(東庁舎)が開所。外装のほか、館内の区民交流ロビーは「家のように居心地よく、訪れやすい空間になるように」と、京都市域のスギやヒノキが使用されました。また、西京区のシンボルである竹を使った家具も設置されています。

「北山杉や里山の魅力に触れてほしい」とマルシェを開催

販売ブースの様子。ニホンミツバチのはちみつなど、マルシェならではの商品も並びます
薪割り機やノコギリなどでスギをカット。焚き火でマシュマロを焼き、味わった回もあるそう

京都の木を身近に感じられるイベントも。毎月第4土曜日、北区中川で開催されているのが「北山杉の里マルシェ」。北山杉の薪割りや焚き火などを体験できます。

「中川地域は北山杉の産地として知られています。子どもの木育や里山の暮らしに興味があっても、きっかけがないという声をよく聞きます。自然の中で遊び、のんびり過ごしてもらえたら」とは、同実行委員会の住山洋さん、中川地区で林業に携わっています。ほかに丸太の皮むき、草木染め体験を実施することも。

販売ブースでは、雑貨やお菓子のお店が出店。出店者は京都市内の人が多いそう。

「出店者をはじめ〝街の人〟は北山杉や里山の魅力に触れ、中川地域の人は街の人や物に触れる機会になる。そんな双方向の交流が生まれる場所を目指しています。京都北部山間地域の情報コーナーもありますよ」

次回の開催は2024年9月28日(土)。詳細は下記参照。

●次回開催

2024年9月28日(土)
午前10時〜午後4時
場所:京都北山杉の里総合セ ンター(北区中川川登74)
※参加無料、予約不要。雨天中止。今後の開催スケジュールは公式インスタグラム(@kitayamasuginosatomarche)から確認を

新築やリフォーム時に活用したい補助金制度

●みやこ杣木(そまぎ)普及促進事業

京都市内の住宅や店舗等に「みやこ杣木」を利用する施主に対して、みやこ杣木購入費用の2分の1以内の補助金(住宅:上限16万円、店舗等:上限160万円)が交付されます。「みやこ杣木」とは、京都市内の森林から関係法令に則って伐採され、京都市域産材供給協会が認定する製材所で加工・管理された市内産木材のこと。詳細の問い合わせは京都市域産材供給協会=TEL:075(406)2671=へ。

●ひろがる京の木整備事業(住宅タイプ)

住宅の新築やリフォーム時に京都府産木材などを使用すると、京都府の「緑の工務店」に登録している工務店などに補助金が交付されます。木材購入費用の10〜50%を補助(いずれも上限あり)。また、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」の金利引き下げ制度との連携も。こちらは、同事業の支援対象となる住宅を取得する個人が対象です。詳細は京都府農林水産部林業振興課のホームページ(https://www.pref.kyoto.jp/rinmu/hirogarukyounokiseibijigyojyuutakutaipu.html)で確認を。

(2024年9月14日号より)