
消費税をはじめ、税金に関するニュースを耳にする機会は多いのではないでしょうか。2026年4月の「税制改正」では、収入にかかわる税金の仕組みが変わりました。その柱となる控除引き上げの基本を解説。「年収の壁」について紹介します。
イラスト/フジー
基礎控除と給与所得控除 前年度に続いて引き上げ
今回の改正では、「基礎控除」と「給与所得控除」の二つが前年度に続いて引き上げられました。
「税金は、収入からさまざまな控除を差し引いたあとの課税所得に対して計算されます。控除とは、所得や税金から差し引くことができるお金のことです」と説明してくれたのは、税理士の荒尾正久さん。
一つ目の「基礎控除」は、会社員やパート、自営業、年金受給者といったほとんどの納税者(合計所得2350万円以下)に適用されます。物価高対策として、2026・2027年は、この基本部分が62万円に引き上げられます。
二つ目の「給与所得控除」は、1年間の給与収入から差し引かれるお金のこと(下図参照)。会社員やパート、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず給与をもらっているすべての人が対象。給与収入の金額によって段階的に控除の計算方法や金額が設定されています。今回の改正では、給与収入850万円以下のゾーンで引き上げられ、850万円超は前年の据え置き(上限195万円)となっています。

2年限定の「上乗せ特例」で減税・手取り増の効果が拡大
さらに注目したいのが、2026・2027年の2年間限定で実施される「基礎控除」「給与所得控除」の上乗せ特例です。
「基礎控除」の上乗せ特例は、前述の基本部分(62万円)に上乗せされるお金のこと。給与収入が約665万円(給与所得489万円)以下の場合、上乗せ特例の金額は42万円。基本部分と上乗せ特例を合わせると、「基礎控除」の合計額は104万円になります。
また、「給与所得控除」の上乗せ特例は、給与収入に応じて段階的に設定されています。給与収入220万円以下なら、基本部分と合わせて74万円に。
引き上げられた基本部分と上乗せ特例により、差し引かれる控除額が増えたため課税される所得額が下がり、税金が低くなるという仕組みです。
「特に中間層や単身層で、手取りの収入が増える効果が大きくなりそうです。昨年と同じ年収であれば実質的な手取り増を実感しやすく、年末調整や確定申告を通じた物価高対策として期待できます」(荒尾さん)

「所得税の壁」と「住民税の壁」 非課税ラインの違いに注目を
紹介した控除の引き上げが大きく影響するのが、いわゆる「年収の壁」です。
そもそも「年収の壁」とは、パートやアルバイト、契約社員などで働く際、一定の収入を超えると税金や社会保険料が発生し、手取り収入が減ったり、世帯の税負担が増えたりするボーダーラインを意味しています。控除の拡大は、収入や時間といった働き方の制限を少し緩め、より柔軟に働けるきっかけになりそうです。
「年収の壁」は、大きく三つに分けられます(下枠内参照)。

一つ目の「所得税の壁」は、税金の対象にならない非課税ラインのこと。従来の給与収入103万円から2025年に一時的に160万円へ、さらに2026年は約178万円へと広がりました。
二つ目の「住民税の壁」は、2025年に引き上げられた110万円までなら住民税がかからないというルールが、そのまま継続されます。「住民税は前年の所得をもとに翌年計算されます。そのため、所得税の非課税ラインである178万円とは連動せず、年収110万〜178万円のゾーンでは『所得税はかからないが、住民税のみが発生する』という制度上のズレが生じることになります」(荒尾さん)
「社会保険の壁」は金額要件が一部撤廃に
そして、「社会保険の壁」は、労働条件や企業規模といった加入要件で、自身が社会保険に加入する「年収106万円」と、配偶者や親の扶養から外れる「年収130万円」の二つの基準が設定されています。
基準の一つである「年収106万円」は、加入要件「月額8万8000円」を年収で換算したものですが、2026年10月からなくなります。10月以降は社会保険加入者が51人以上の企業で、週の所定労働時間20時間以上などが加入要件になります。
社会保険労務士の八田淳子さんによると、「130万円の基準は、労働契約締結の段階で年収が基準未満であれば、扶養として認められる可能性があります」。
「社会保険に加入すると将来もらえる年金が増えるほか、病気やケガ、出産などの際、健康保険から給付金を受けられる場合があります」(八田さん)
荒尾さんは、「税金と社会保険では改正の時期や仕組みが異なるため、違いをしっかり把握することが大切です。自分自身の税金だけではなく世帯全体の手取りや働き方に関わる大切な変更です」と話します。
下のモデルケースをもとにアドバイスをもらいました。
モデルケースA
Q. パートのシフトを増やして週20時間・年収110万円にしようと思います。控除の枠が広がったから手取りも増えますよね?

夫(40歳・会社員)年収 550万円、持ち家で住宅ローン返済中
妻(40歳・パート)年収103万円(週18時間勤務)
子13歳(中学1年生)
子8歳(小学2年生)
A. 年収は額面で7万円増えますが、社会保険料が発生するため妻の手取りは約9万円減ることになります。また、妻が社会保険の加入対象になることで、夫の勤め先の家族手当がカットされるかもしれません。週20時間未満に抑えて103万〜110万円前後で働くか、手取りもしっかり増える年収150万〜160万円以上を目指してしっかり働くか、働き方について検討してみることが大切です
※一般的なケースで試算
学生バイトの「壁」も緩和 「特定親族特別控除」が新設
19〜22歳の大学生などの子どもがいる世帯で押さえておきたいのが、今回新たに創設された「特定親族特別控除」です。
これまでは、学生のアルバイトの場合、年収が103万円を超えると親が受けられる「特定扶養控除」63万円がすべてなくなっていました。これにより親の支払う税額が一気に増え、世帯手取りが減るという事態になっていたのです。
「特定親族特別控除」によって、アルバイトの年収が150万円までであれば、親の特定扶養控除をそのまま維持できるように。さらに150万円を超えても、188万円までは控除の金額が段階的に減る仕組みに変更されました。
「親の税負担を気にしてシフトを抑えていた学生にとっても、年収枠が広がって世帯の負担増を防ぎながら、学費や生活費のために働きやすくなったといえるでしょう」(荒尾さん)
下のモデルケースも参照を。
モデルケースB
Q.大学生の子どもが夏休みなどにバイトを頑張って、年収140万円になりそうです。扶養から外れて親の税金が増えてしまいますか?

夫(50歳・会社員・年収 700万円)
妻(48歳・扶養内パート)
子(19歳・大学生)
A. 新制度のおかげで親の税金は増えずにすみます。親の社会保険(健康保険)の扶養枠も150万円未満まで対象となるため、年収140万円であれば健康保険の扶養から外れません
※一般的なケースで想定
ほかにも生活の中に動きが
税制改正によって「年収の壁」の見直しや非課税枠の拡大が進むなか、住宅取得の支援や資産形成の拡充、社会保険料の新たな負担など、暮らしや世帯収支に直結する動きも。合わせてチェックして。

子育て期の住まい取得を後押し
「住宅ローン控除」の拡充
「住宅ローン控除」は、5年間延長されるとともに、子育て世帯への優遇が強化されています。適用期限は2030年末までの予定。「19歳未満の子どもがいる世帯」または「夫婦どちらかが40歳未満の世帯」を対象に、省エネ性能が高い住宅(新築・中古)などを取得した際の借入限度額(控除上限)に500万〜1000万円の上乗せ措置が受けられます

未成年の資産形成も可能に
「NISA」の拡充
NISAは、さらに使いやすくアップデートされます。2027年1月から、従来の「つみたて投資枠」にあった年齢制限を撤廃。18歳未満の未成年でも利用できるように。年間60万円(非課税保有限度額600万円)までの積立投資が非課税で運用可能となります

全世代で子育て施策を後押し
「子ども・子育て支援金」の徴収開始
今年4月から、少子化対策の財源として、健康保険料などに上乗せする形で「子ども・子育て支援金」の徴収が始まりました。子どもの有無にかかわらず、全世代で負担する仕組み。会社員や公務員の場合、2026年度の支援金率は給与・賞与の0.23%です。事業主と本人が折半して負担し、本人からは月100円から1000円程度が徴収されます
教えてくれたのは
(2026年9月26日号より)
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