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紋の意味や店の歴史をひもときます 京都〝のれん〟物語

2026年2月27日 

京都のまちを歩いていると、のれんが掛かる店をたくさん見かけますね。「のれんを守る」という言葉もあるように、のれんは店を象徴するアイテム。どのような思いが込められているのでしょうか。

写真/鈴木誠一ほか

のれんは風雨にさらされるため定期的に新しいものに取り替えますが、「この模様はこれからもずっと使い続けたい」と小西さん

住宅街に現れたのは、趣のある店構え。入り口の白いのれんに描かれているのは、文字と絵のように見えますが…。

「この模様は私のひいおじいさんの代から使われているもの。旅先の中国で作ったハンコの印影がモチーフと聞いています」

そう話すのは、1722年創業の料亭「萬亀楼」の10代目店主・小西将清さん。同店は、京料理、平安時代の宮中で行われていた食の儀式「式庖丁(しきぼうちょう)」と「有職(ゆうそく)料理」を継承しています。

「店で魚を扱うことから、魚の絵と屋号の『萬亀』を表す象形文字が組み合わされているんですよ」

店を長く続けていく上で、小西さんが大切にしているのは「時代に合わせて変える部分と、譲れない部分を見極めること」だそう。

「有職料理は形式を守りながら、現代の好みに合わせて食材や味をアレンジ。京料理の場合は、食材やだしなど作り方に重きを置き、盛り付けには流行りを取り入れることもあります」

一方で、「式庖丁は披露する機会も減っているので、継承する難しさを感じます。ここまで残ってきたのは運がよかった。文化を大切にする京都の気風があってこそですね」と振り返ります。

「今は、息子が11代目として腕をふるっています。後に続く人が現れたらうれしいですね」

萬亀楼(https://www.mankamerou.com

小西さんは「生間(いかま)流式庖丁」の30代目家元。寺社仏閣の奉納行事や国内外のイベントで披露しています
宮中の節会で楽しまれてきた有職料理。器や盛り付け方、提供方法などに伝統的な作法や形式があります
祇園の北側、末吉町通に面する同店。「通りのお向かいにあった店で創業し、明治時代に現店舗に移ったそうです」と井上さん

1818年創業の和菓子店「するがや祇園下里」ののれんには、勾玉(まがたま)を二つ合わせたような模様がころころと。7代目店主・井上真由美さんは「下里の漢字を元にした紋です。当店は総本家駿河屋からのれん分けで創業した別家。紋の右側は本家の創業時の店名・鶴屋にちなんで、ツルの頭を模したとも言われています。少なくとも4代目のころから、のれんに使い続けています」。

5代目は井上さんの祖父母で、店は幼い頃から慣れ親しんだ〝第二のわが家〟でした。ところが、店を継いだ叔母が他界し、「義理の叔父が一人で営んでいましたが、いつの間にか、店の所有権が一部、人手に渡ったことがわかって。そこで初めて2021年に閉業していたことを知りました」。

「店を無くすわけにはいかない」と井上さんが継業を決意。土地と建物を取り戻して2023年に再開します。

「祇園豆平糖」は明治初期から代々継がれてきたあめ菓子で、箱のデザインも昔のまま

「長年のお客さんは店ののれんや佇まい、商品の姿形で覚えてくれてはるので、できるだけ昔どおりに。複刻にあたり周りの方々にもずいぶん助けてもらいました」

看板商品のあめ菓子「祇園豆平糖」やねりようかんは従来の素材や製法を守り、新たにひやしあめを使ったソーダやアイスクリームなどの販売も始めています。

「近隣にものれんを継いだ同世代の人たちがいるので、一緒に地域を盛り上げたいです」

するがや祇園下里(https://gionshimosato.com

のれんは季節ごとに替わり、冬は紺色。春は青緑色の布地になります

京都市役所の西、寺町通に、りりしいのれんが掛かるお店が。こちらは、すずの器をはじめとした金属工芸品を扱う「清課堂」。各種金属を飲食器や茶器、花器、文房具といった製品に仕立てています。

創業は1838年。同店7代目の山中源兵衛さんは「第二次世界大戦前は『山中』と入ったのれんを掛けていましたが、戦中以降に用いなくなったと聞いています」と話します。今ののれんは10数年前、自身が新しくあつらえたものだそう。

同店のすず製酒器。つち目の模様から手仕事の温かみが伝わるちろりとぐいのみ

「店自体も美意識が伝わる〝作品〟にしたいと、父から代替わりするタイミングで内外装を徐々に変えていったんですね。その一環でのれんも改めて掲げることに。中央にはブランドの象徴として家紋を置きました。家紋がズレなくつながるよう精緻に仕上げています」

2013年にはこののれんを含む店構えが「京都景観賞」市長賞を受賞しています。

「先人が探求し作り上げてきた技術や文化が絶えるのは『もったいない』と家業に入って35年になります。作品も店も、理想を追求していきたいですね」と山中さん。次代について聞くと「今は子どもたちに精一杯やっている姿を見せようと思っています」。

清課堂(https://www.seikado.jp/

京都には、のれんを制作する染匠が多数あります。老舗から新店まで幅広く手掛ける「染匠 勇奏(ゆうそう)」の山田万秀(まほ)さんが語った、作り手としての思いとは。

 「染匠 勇奏」で用いられているのは「しるし染」という染色技法。家紋やロゴといった「しるし」をくっきりと染めるのに適した技法です。同店は1点ずつオーダーメードで制作。経年変化によって風合いに味わいが生まれるのが、手染めの魅力です。「のれんは店の格式や歴史を表すものでもあります。その品格を表現できるように、シンプルかつ、お店の外観を邪魔しないのれんづくりを心がけています」

 近年はアパレルショップやマンションなど、さまざまな軒先にのれんが掛かっています。「街並みとも調和するような仕上がりが理想ですね。モダンな建物であっても、のれんは不思議とスッとなじむんですよ」

染料が範囲外にしみ込まないよう、米のりで文字の輪郭をカバー
複数の色に染める際は、染めない部分を米のりで覆います

 「昔は業種によって、のれんに使用できる色が決まっていたそうですが、現在はお店の雰囲気やコンセプトに合わせてバリエーションが豊富です」

 夏は白色、冬は紺色やえんじ色など、四季によって色を使い分ける店も。「季節の移ろいを演出できるのも、のれんの魅力です」

 歌舞伎や芝居など芸事の世界では、ファンが演者に「楽屋のれん」を贈る文化もあります。「商売繁盛や舞台の成功を祈って掲げられるものだからこそ、その思いが伝わるよう、一つ一つの制作に丁寧に向き合っています」

染匠 勇奏(http://www.some-yuso.jp/

楽屋のれんのサンプル

(2026年2月28日号より)