“適塩生活”を始めましょう

2025年10月17日 

リビング編集部

※文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」をもとに編集部が算出

サンマの塩焼き、煮物、炊き込みご飯…。食欲の秋は、食べすぎだけではなく、「塩分の取りすぎ」にも要注意。管理栄養士のアドバイスを参考にしながら、健康的に食事を楽しみましょう。

写真/鈴木誠一 イラスト/フジー

塩というと取りすぎがクローズアップされがちですが、「塩に含まれるナトリウムは、人体に欠かせないミネラルなんですよ」。

そう話すのは、京都栄養医療専門学校の講師で、管理栄養士の澤村敦子さん。

「ナトリウムには、細胞が適切に働くために必要な体内の水分を保ったり、栄養素の吸収を助けたりする働きが。汗をかくなどして一時的に不足すると、倦怠感(けんたい)感やけいれん、頭痛などを引き起こします」

とはいえ、取りすぎはNG。取りすぎると体内の塩分濃度を薄めるために血中の水分保持量が増え、体がむくみやすくなるとか。

「慢性的な過剰摂取は高血圧を招き、脳卒中や心臓病、腎臓病などのリスクを高めます」

京都府民の主な死因を疾患別に見たとき、男女ともに心不全の割合が全国平均より高いというデータ(※1)も。高血圧は健康課題の一つになっています。

では、私たちは普段、どのくらい塩分を摂取しているのでしょうか。

京都府の調査(※2)によると、20歳以上の府民の1日あたりの食塩摂取量平均値は10.9g。「厚生労働省が定める1日の摂取目標量が男性で7.5g未満、女性で6.5g未満ですから、3g以上オーバーしています」と澤村さん。府民の約9割が塩分過多の食生活を送っているよう。

「中食・外食の機会が増え、味が濃いものが多い現代では、意識して摂取量を抑えないと簡単に目標量を超えてしまいます。お菓子やジュースには、少量の塩が入っているものも。間食による無自覚な塩分摂取にも気をつけたいですね」

また、年代別に見ると60代以上の摂取量が多いという傾向が。

「これは、味覚の衰えから味付けが濃くなったり、菓子パンなどで簡単に食事を済ませたりといったことが要因として考えられます」

澤村さんは「健康のためには、年齢や性別、体調や運動習慣に合わせ、自分にとって適切な量の塩分を取る〝適塩〟が大切です」と話します。

塩分過多の人は、目標量まで減らすことが適塩につながります。ですが、ただ調味料を減らすだけだと料理の味気なさが気になり、食事を楽しめませんよね。

そこで、無理なく、おいしく適塩を目指す方法を教えてもらいました。

(※1)「人口動態統計特殊報告」
(※2)「令和4年京都府民健康・栄養調査」
(※3)「日本の食事摂取基準2025版」

食材の買い出しや調理中、外食時など〝適塩〟を意識できるタイミングはたくさんあるそう。

「まずは食品や料理の食塩量を把握すること。塩気を感じなくても、隠し味に使われているものは多いです。とはいえ、正確に食塩量を計算するのは難しいので、濃い味のものを食べたら次の食事は薄味にするなど、1日の中でバランスをとって」(澤村さん)

味付けは塩味に頼りすぎず、甘味・酸味などの五味や、食材のうま味を活用することで、味気なさを軽減できるとか。

塩分を体にため込まないことも重要です。

「野菜や果物には、ナトリウムを排出しやすくするカリウム(※)が含まれています。塩分の多い料理を食べるときは、野菜もしっかり取り入れましょう」

適塩のためのアイデアを、下記に紹介しています。

※腎臓病の人はカリウムの取りすぎに注意を

食品の「栄養成分」をチェック

スーパーやコンビニなどで販売される加工食品には、「栄養成分」が記載されています。食品に含まれるナトリウムの量は「食塩相当量」で確認を。確認を習慣付けることで、1日の摂取量を把握しやすくなりますよ。

味が濃い料理は、1食1品にとどめる

すべての料理の味付けが濃いと、食塩摂取量も増加してしまいます。主菜の味が濃い場合、副菜や汁物は薄味にするなど献立内でメリハリをつけましょう。

ソースやドレッシングで食塩量調整

一般的に、油分の多いマヨネーズなどの調味料は塩分が少なめ。ノンオイルドレッシングは、風味を補うために塩分が多い傾向があります。献立全体の食塩量を踏まえた使い分けを。ソースは、料理に〝かける〟より〝付ける〟ほうが、量を抑えることができます。

香味酸味を活用する

薄味の料理に物足りなさを感じる人は、〝香り〟でひと工夫を。カレー粉や七味、ハーブなどの香辛料をプラスして風味を際立たせると、満足感を得やすくなります。塩分が少ない、酢やレモン汁などもおすすめ。酸味には塩味を引き立てる効果があり、少量の塩でも味にまとまりが生まれます。

冷菜は味付けを薄めに

冷たい食べ物は塩味を感じやすく、温かい食べ物は塩味を感じにくいそう。おひたしなど冷製の副菜は、食べる前にしっかり冷やしておくことで、少量の調味料でもおいしく味わえます。お弁当用のおかずは一般的に味を濃いめに作りますが、適塩を考えるならいつもより薄味を心がけてみて。

味が濃くなりがちな家庭料理の中から2品、おいしく適塩に仕上げるコツを教えてもらいました。

人は、具材の中心部より表面の味を感じやすいそう。この特徴を利用し、煮物は、食材をだし汁で軟らかくなるまで煮込み、味付けは火を止める直前に。あえて具材の表面だけに調味料をまとわせることで、煮物らしい味わいを保ちながら、塩分が染み込むのを抑えることができます。

汁物は塩分が多くなりがち。濃いめにだしを取ることで、みその使用量を減らしながら風味をアップ。さらに、具だくさんにすると1杯あたりの汁の量が減り、食塩摂取量を減らすことができますよ。

京都栄養医療専門学校
講師/管理栄養士
澤村敦子さん

2012年から「京都透析食腎臓病食研究会」と連携し、腎臓病患者向けのレシピを考案。講習会などで「適塩」の啓発にも努めています

京都府、京都市は適塩・減塩に向けた取り組みを実施しています。それぞれ、塩分を控えるコツやレシピなどを発信しているので、参考にしてみて。

前述の通り、府民の約9割が塩分を過剰摂取しています。そこで、京都府は2019年から長岡京市や城陽市など府内のスーパーと連携した「きょうと適塩プロジェクト」を実施。総菜を活用した適塩レシピの紹介や、店頭での啓発キャンペーンを行っています。レシピは右記特設ページから確認可能。

〈特設ページ〉
https://www.pref.kyoto.jp/kentai/kyototekienproject.html
〈問い合わせ〉
京都府健康福祉部健康対策課
TEL:075(414)4724

京都市では、市民の高血圧予防・改善の取り組みとして「京都おいしい減塩プロジェクト」を推進。各区役所・支所でレシピを配布したり、ホームページ「京・けんこうひろば」などで情報を発信しています。同ホームページでは、減塩レシピや、食生活から塩分摂取の傾向を振り返る「塩分チェックシート」も公開されています。

〈京・けんこうひろば〉
https://kyo-kenko.city.kyoto.lg.jp/
〈問い合わせ〉
京都市保健福祉局健康長寿のまち・京都推進室健康長寿企画課
TEL:075(222)3424

(2025年10月18日号より)