“実りの秋”、収穫を迎える人たち

2025年9月19日 

リビング編集部

ナシは低木なので、足を開くなどして低い体勢で収穫。首からかけているコンテナには60個ほど入ります

ナシ、クリ、サツマイモ。今、そしてこれからが旬の、秋の味覚です。まさに収穫の時期、それぞれの畑で生産者の人たちに直撃インタビュー。

撮影/深村英司ほか

ナシ

「二十世紀」の次は「新興」「王秋」
出荷は12月まで続きます

京丹後市 白岩清和さん

「果実は下に引っ張るのではなく、持ち上げて枝から外します」と清和さん
母の啓子さん(右)は77歳。同園の娘として育ち、ナシ農家のキャリアは約60年。午後は受注・発送業務をしています
久美浜町では果実に袋掛けをしてナシを育てるそう。取材時にあったのは「二十世紀」です

京都府北部のナシの産地・京丹後市久美浜町で、ナシ農家を営む白岩清和さん(51歳)は、「白岩農園」の四代目。今年は、8月20日から収穫を始めたといいます。

「最初は『秋麗(しゅうれい)』、9月に入ったら『二十世紀』。それが終わると『新興』『甘太(かんた)』、10月下旬には『王秋(おうしゅう)』を収穫します」

これらは、いずれもナシの品種の名前。「出荷するまでには至っていない」ものも含めると、約1・2haの同園には6種のナシの木が植えられています。

2025年9月7日の取材日は、午前6時~7時に自社販売用に約500個、午前7時30分~10時30分にはJA出荷用に約2000個の『二十世紀』(※)を収穫したとか。

「早朝は母と、後の時間はこの時期だけ帰省してくれる大学生の長男と一緒に収穫。すべてを作業場に持ち込んで、母と2人で果実を包んでいる袋をはずし、JAに持ち込むまでを午前中に終わらせます。2週間くらい毎日こんな感じです」

一方、「王秋」は1日で一気に1万6000個を収穫するそう。「5人くらいのベテランさんに手伝ってもらいます」。保存しておいて、12月のお歳暮の時期まで徐々に出荷するのだとか。

白岩さんは会社員でしたが3年前、早期退職して同園を継ぎました。

「父が他界して母1人では厳しいと思って。僕も少し手伝ってはいましたが、詳しいことはわかっていなかったから少しでも早い方がいいと。年間を通してさまざまな作業が必要なのですが、それぞれ経験できるのは1年に1回のみ。ナシを育て出荷するという一連の流れを、僕はまだ3回しか経験できていない」

11月に肥料をやり、12月~3月は木々の剪定(せんてい)、4・5・6月で交配用の花粉付けや果実への袋掛け、7・8月は水やりと草刈りなど。「剪定の方法などは、母に習っています。同業者が集まる『果樹同志会』などでも、いろいろと教えてもらって助かっています」

昨年はカメムシの被害で秀品率は例年の3割程度、しかし今年は雨も少なくカメムシもつかなかったので「甘味のある、おいしいナシが例年並みにできましたよ」

※掲載時は、二十世紀の出荷はほぼ終了

サツマイモ

砂地の畑は水やりが重要
地温を高めるシート掛けも

城陽市寺田町 田畑直幸さん

祖父の代から受け継いだ国道24号線近くの畑で「寺田いも」を栽培する田畑さん。「掘りたてのイモは、水で洗わず、そのまま1か月ほど置いておくと、熟成して甘みが増すんですよ」(田畑さん)
4月に植える苗はこれくらい、25cmほどの長さだそう
イモを掘る前日の準備中。地上に伸びた葉や茎を刈り取り、畝を覆っていたシートを外します。地表に近いところにできる「鳴門金時」は掘りやすいのも特徴

「昔近くの木津川がよく氾濫し、寺田辺りは荒州(あらす)と呼ばれる砂地になりました。この地域で、江戸時代からサツマイモが栽培されています」と話してくれたのは、城陽市寺田で農業を営む田畑直幸さん(74歳)です。

「ほら、地面が柔らかいでしょう。固い土と比べて抵抗が少ないぶん、イモが大きく、形もよくなる。甘みも強いといわれていますよ」

この肥沃(ひよく)な砂地で育ったサツマイモは品種に関わらず「寺田いも」と呼ばれ、城陽市の特産物とされています。

田畑さんが育てているのは「紅(べに)はるか」「鳴門金時(なるときんとき)」など。

「サツマイモは元来、暑さに強い作物。今年の夏もすくすくと育ちました。ただし、砂地は水はけが良いので畑が乾燥し過ぎないよう、例年より水やりには気を配りました」

地下水を汲み上げ、スプリンクラーで畑全体に水をまきます。しかし、雑草は人の手でとらないといけません。「今年は暑さで雑草が育ちすぎて、人間のほうが大変です(笑)」

収穫時期は、9月下旬から10月中旬ごろ。

毎年、収穫したイモの一部を〝種いも〟として残し、翌年の3月ごろに苗床で育てます。約1か月後に成長した苗を畑に畝を作って、植え付けるというサイクル。畝には、マルチという黒いシートを掛けます。これは、地温を上げて生育を早めるため。

田畑さんは、「今年の3月は好天続きで、苗も順調に成長しました。これから10月中ごろまで地中で育ち続け、立派な大きさのイモになるはず」と言います。「焼き芋にして食べるなら『紅はるか』ですね」。

クリ

落下時点の品質を保つため
拾い集めるのは時間との勝負

京丹波町 今川敏夫さん、瑞沙姫(みさき)さん

9月下旬から、より大粒のものが収穫の最盛期を迎えるとのこと。3年前から同園での仕事始めた瑞沙姫さん(右)は「まだまだ修行中です」
「通常は樹齢15~20年ぐらいが最果期ですが、栄養が十分行き渡るよう剪定すれば、50年経っても実をつけます」と敏夫さん(左)
8000㎡ある農園の始まりは60年余り前。敏夫さんは同園の2代目で、クリの木を増植し規模を大きくしたのだそう。現在は約430本

甘くて大粒、色つやも良いと評判の「丹波くり」。「特定の品種を指すのではなく、丹波地方で採れる栗の総称です」とは、京丹波町にある「今川農園」の今川敏夫さん(78歳)。同地方独特の昼夜の寒暖差は、おいしい栗が育つ要因の一つといいわれてます。

収穫は9~10月。9月6日午前10時ころ、敏夫さんも娘の瑞沙姫さん(28歳)と一緒に、農園で作業を進めていました。

「熟してイガごと落果した時点が最も品質がいいので、収穫は時間との勝負。朝露が乾いた後、太陽光で熱を持ち始める前、正午ごろまでの数時間で拾い集めます。多い時で、200kgほどです」

今夏は酷暑で葉が枯れるといった被害が出たものの、「8月に数度雨が降ったおかげで木々が育ち、昨年より収穫量が増えるかな」と敏夫さん。

収穫の後は、栗の粒を大きさで選り分け、不良果を除いて0℃程度の保冷庫へ。「品質が落ちないよう冷蔵しますが、2週間ほど置いておくと、糖度が上がってさらにおいしくなります」

おいしさをもたらすためには、冬に行う剪定(せんてい)が大切。

「すべての枝に光と風が当たるよう、枝の数を半分ほどに減らします。日当たりが悪いと、実は大きくならず甘さも出ない。病害虫も発生しかねません。次の年の実のなり方に影響しますから重要です」

加えて、草刈りに病害虫防除、また獣害対策として農園を電気柵やネットで囲うといった数々の手立てを講じているそう。

後継ぎを目指す瑞沙姫さんは「クリ農家として進化もしていきたい」と意気込みます。

「いま、『丹波くり』のスイーツづくりに挑戦しています。味は同じなのに、割れなどで出荷できないクリがもったいなくて。加工して商品化すれば、もっと多くの人においしさを届けられると思います」

(2025年9月20日号より)