身近な川にまつわるトピックス

2025年8月22日 

京都には多くの川が流れ、人々の暮らしに深く関わってきました。
身近な川にまつわる、ここ数年の新たな動きを紹介します。

撮影/深村英司ほか

琵琶湖から流れる瀬田川が宇治川と名前を変え、桂川や木津川と合流、淀川となり大阪湾へ。かつて伏見より下流の宇治川と淀川は、京都と大阪を結ぶ重要な交通路として発展。江戸時代には伏見エリアが起終点となり、三十石船が人や物資を運んでいたといいます。ですが、その役割が陸路に移っていったことで、河川の交通路は衰退していったのだとか。

ところが、1995年に阪神・淡路大震災が発生。これを機に、災害時の輸送ルートとして見直されることに。以来、少しずつ川の整備が行われてきました。

災害時、物資輸送用の大型の船を運航するには、川底をくっ削するなどの整備に加えて、淀川の河口付近に設置されている「淀川大堰(おおぜき)」の改良も必要でした。「『淀川大堰』は海水の逆流を防ぐもの。水位に高低差があるため以前は船が通れなかったのですが、今年3月に『淀川ゲートウェイ』と名付けられた淀川大堰閘門(こうもん)が利用できるようになったことで、船の通過時にはゲート内で水位が調整され、通航が可能になりました」とは、淀川河川事務所の天野さん。

災害時だけではなく、観光での活用が期待されています。

「京都エリアでは、昨年、伏見・枚方間を62年ぶりに1日だけ観光船が運航。今年5月にも宇治川の伏見・背割堤(せわりてい)間を三十石船を模した観光船が2日間運航されました。万博会場と伏見をつなぐ航路も誕生しましたが、船だと約6時間も要します。しかも川の船は波に弱いため、大阪湾付近で乗り換える必要も。今のところ、観光利用には至っていません」と、京都府商工労働観光部の西田さん。

現状、観光船はイベント時などに限り運航。観光用の定期船を走らせるには、水量の予測の難しさなど、課題は多いそう。

「京都の発展に川は大きく関わってきました。新航路の観光利用が促進されることで、川沿いの文化も知ってもらえたら」

「伏見港」では航路の復活に伴い、今年3月に新たな船着き場が完成しました

長靴をはき、手には大きなトングとバケツを持ち、じゃぶじゃぶと高瀬川に入ってごみを拾っていきます。川辺の草を刈り取る人の姿も。

取材した7月、川を清掃していたのは京都市立芸術大学の学生・教員らの有志団体「京芸高瀬川保勝会」のメンバー。

「京都駅東側にある大学のキャンパス内を通る高瀬川を自分たちで美しくしようと、2023年10月から掃除を始めました」とは、会の代表を務める同大学工芸科の准教授・安藤隆一郎さん。月1回、インスタグラムなどで実施日を告知し、当日来た人が作業するスタイル。学外の人も参加OKなのだそう。

清掃は川下からスタートし、川上へ移動しながら行います。夏場は植物が伸びるスピードが早く、清掃が追いつかない大変さも

ただ清掃するだけではなく、生態系を守ることも意識している同会。

「以前は京都市が年に1回重機を使って泥を取り除いていましたが、今年からはそれを中止。人の手で管理することで、より細やかに環境に配慮できると考えるからです」

清掃活動が、参加者の創作にもつながっているそう。

漆工専攻非常勤の佐々木萌水(もえみ)さんは、川で拾った陶器のかけらを漆でつなぎ、器を制作。染織専攻大学院卒業生の美馬摩耶さんは、川から集めた植物で布を染色。漆工専攻卒業生の浅倉由輝さんは、川底に埋もれていた古い小瓶のふたからインスピレーションを得てオブジェを作りました。

「川の美化活動が、参加者にとっての〝何か〟を発見する機会となっています」(安藤さん)

左から浅倉由輝さん、美馬摩耶さん、佐々木萌水さん
オブジェには、拾ったふたを型どりしたものを使用
布には川を中心とした京都の地図が描かれています
陶器のかけらは、フェルトに漆と土を混ぜたパテを塗ってつないでいるそう

宇治川河川敷の観月橋辺りから国道1号付近には、ヨシ原と呼ばれる一帯があります。1年で約3mの高さに育つ、イネ科のヨシ。かやぶき屋根やすだれの材料として使用されてきました。

「ヨシは放っておくと、立ち枯れしてしまいます。毎年刈り取り、手入れをすることが大切です」と話すのは、「宇治川のヨシ原を守るネットワーク」のメンバーの山田さん。

ヨシの手入れにおいて欠かせないのが、刈り取った後、焼いて地面をきれいにする「ヨシ焼き」。100年以上前からの伝統行事ですが、灰に対するクレームなどもあり、3年前から中断していたといいます。

「ヨシ焼き」は3月、風の弱い日を選んで行われます

洪水時に水の流れを軽減させたり、土砂を受け止めたりと市街地に近いこの地域にとって重要な働きをするヨシ原。

「ヨシ原は、ツバメや昆虫など、多様な生物のすみかでもあります。ヨシ焼きを実施しないと、良質なヨシ原を保つことができず、生物のねぐらが損なわれることに。ヨシ原を守ることは、生物多様性保全にもつながります」と、同メンバーの福冨さん。

ヨシ焼きを復活させてヨシ原を守るため、向島の住民などが中心となり、昨年、同ネットワークが発足。前身の団体の活動をさらに本格化させる形で再出発しました。ヨシで箸や紙を作るなど、有効活用も進んでいます。大阪・関西万博のパビリオンの屋根にも、宇治川のヨシが使われているそう。

山田さんらの働きかけもあり、今年3月、宇治川のヨシ焼きが文化庁「ふるさと文化財の森」に認定されました。「来年は、ヨシ焼きを復活させる予定です。これを機に、もっとたくさんの人に宇治川のヨシのことを知ってもらえたらうれしいですね」(山田さん)

ヨシを使った商品を開発する「rikuno wa」による「ヨシ箸」

嵐山・渡月橋の上流。桂川の左岸の地中には、幅2m・高さ0・8mのパネルが130枚収納されています。「増水時、京都市の職員が1枚ずつ機械を使って動かします」と教えてくれたのは、淀川河川事務所の曽山さん。

2022年、約260mにわたって作られたこの可動式止水壁(しすいへき)。景観への配慮などの観点から、増水時のみ、水をせき止めるゲートが立ち上がる仕組みです。

このエリアでは、以前は洪水による浸水被害が頻発。景観を損なわず防災対策をと、住民たちと協議の末、完成したのだそう。

「この数年の間に何度か稼働し、浸水を防いできました。より浸水被害を軽減できるよう、近くにある『一の井堰(ぜき)』の改築や派川改修などを実施予定です」

普段の様子
止水壁が稼働したときの様子。2023年にはグッドデザイン賞も受賞

 「〝治水100年の計〟と言われるように、河川の整備は長期的な視点で計画し、対策を講じていく必要があるため、完成までには長い年月がかかります。河川の改修工事は、基本的に約30年間の具体的な整備内容を定めた計画に沿って取り組まれています」と、京都府京都土木事務所河川砂防課の担当者は言います。

 例えば鴨川は、2010年に立てた「鴨川河川整備計画」に基づき、七条大橋から桂川との合流部までを整備中。「今年は、桂川と合流する手前の京川橋付近の工事を進めています。主に川の流れを良くするため、水が流れる面積を広げる工事を実施。川底を掘り下げるときには、工事する箇所に水が流れないよう、川の水を迂回(うかい)させます」

 同計画には、三条大橋と七条大橋間の「花の回廊」と連続した「緑の回廊」の整備なども予定されています。

 そのほか、伏見区深草に浸水を防ぐ遊水地を設けた七瀬川、自然風景との調和をはかる善峯川など、各河川で整備が進んでいるそう。

整備された鴨川の桂川合流部(2025年に空撮)

(2025年8月23日号より)