介護と子育てのダブルケア

2025年7月4日 

子育ての真っ最中に、親や祖父母の介護に直面する人も。読者の体験談や、そのような状況になったときの心づもりを専門家や自治体に聞き、紹介しています。

イラスト/オカモトチアキ

〝ダブルケアラー〟が増加中

「介護と子育てなど、二つのケアが同時進行する状態を〝ダブルケア〟といいます」とは、京都華頂大学現代生活学部の教授・吉島紀江さん。子どもがいる家庭の福祉について研究しています。

「介護と子育てを担う〝ダブルケアラー〟の数は増加傾向にあり、団塊ジュニア世代が高齢になるころまで増えると見込まれます」

ケアが重なる背景には、晩婚化、出産年齢の高齢化のほか、きょうだい数の減少などによる親族内の介護者不足が関係しているよう。また、「子育ては子が成人すれば一段落という人も多いですが、引きこもりなどの要因で成年後も続き、ダブルケアが長期化する場合も」と吉島さん。

読者にアンケートを実施したところ、108人から、さまざまな体験談が届きました。その中から、いくつかピックアップして下記で紹介します。

読者の体験談

両親が大病と大けがで、違う病院にほぼ同時期に入院。夜泣きする赤ちゃんを抱え、睡眠不足の中、世話をしながら病院・実家・わが家を毎日行ったり来たりしていた。自分の時間などなく、協力者もほぼいなかった(Nさん/38歳、子1歳、父72歳・母72歳)

四六時中介護をしていて、寝不足の日々。子どもは公園遊びやお出かけもたくさんしたい元気な年齢で体力の限界を感じる毎日でした(Nさん/35歳、子5歳、義父71歳)

子ども2人の高校・大学受験と父の闘病生活が重なりました。通院に付き添い、入院時には毎日、母を面会に連れて行きました。さらに、子どもたちの三者面談や塾の送迎、進路の相談とフル稼働できたのは、今思えば自分が健康で元気だったからこそだと思います(Kさん/51歳、子18歳・15歳、父79歳)

時間がなくて毎日数分単位でスケジュールを組んで動いていた感じです。母の食事が終わればすぐに子どもの食事、母のお風呂が終わったら子どものお風呂と、休みなく動いていました(Nさん/40歳、子6歳、母67歳)

子どもの体調不良で仕事を休むときは職場の理解もあったけれど、祖母の介護で休むときは「なんでお前が休むんや」という雰囲気があって気まずかった。日々くたくただったけど、動ける自分がやるしかなかった(Mさん/30歳、子0歳、祖母88歳)

今もダブルケア中。時給制の仕事なので、介護による遅刻や早退、欠勤はその分給与が減る。仕事の調整などもストレスだし、今後の子どもの教育費を考えると金銭面も不安(Tさん/45歳、子11歳・5歳、母72歳)

※2025年6月にリビング読者にアンケート。有効回答数578。()内は当時の年齢

地域のつながりを活用し、情報収集を

「ダブルケアは、子どもと親、どちらを優先するか悩む人が多いんです。親に助けられてきた恩を返したい、でも子どもにも向き合いたい、と。育児も介護も女性が担うケースが多く、きょうだいがいても結局誰か一人に負担が集中している場合も。仕事との両立も難しく、融通がきく職場でなければ、転職せざるを得ないこともあります」

吉島さんは、京都府内のひとり親家庭を調査した際、ダブルケアの深刻さに触れたといいます。こうした問題は、ひとり親家庭だと、より顕著なのだとか。

子育て中に介護が始まったら、どうすればいいのでしょうか。

「まずは家族に相談を。分担できることはないか話し合ってみて。そして地域の人たちとつながりを持ち、情報を集めましょう。地域には、子どもや高齢者の見守り、相談対応、支援などを行う民生委員・児童委員がいます。活用できる制度やサービスなどを教えてくれますよ。担当者を知りたいときは、自治体の福祉担当窓口に問い合わせを」

また、近くの児童館を頼るという方法もあります。

「保育士や社会福祉士など資格を持った職員が働いています。幅広い情報を提供してくれるはずですよ。少し勇気を出して相談してみて」

また、「周りの人もちょっとおせっかいを」と吉島さん。

「子育てと介護で辛そうな人がいたら『最近大変なんちゃう?』と声をかけてみて。気にかけてくれる人がいることは、心の支えに。うまく両立できるきっかけになるかもしれません」

教えてくれたのは

京都華頂大学
現代生活学部
教授 吉島紀江さん

京都市では、社会全体でケアラーを支えるための条例を施行

現在、府内にダブルケア専用の相談窓口や支援制度はないそう。ただ、介護、子育てそれぞれの専門機関に相談した際、その背景にダブルケアの問題がある場合は、関連窓口を紹介してもらえます。

そんな中、京都市に動きが。京都市保健福祉局福祉のまちづくり推進室の企画・ケアラー支援推進課長、今井篤さんに聞きました。

「京都市は2024年11月、『京都市ケアラーに対する支援の推進に関する条例』を施行しました。この条例は、すべてのケアラーが希望を持って自分らしく生きることができる社会の実現を目指し、ケアラーを社会全体で支えることを掲げています。当事者や支援者のみなさまと連携を図り、市民と一緒に支援の推進に取り組んでいきます」

悩みを抱える人の中には、相談場所があることや支援を受けられることを知らないケースもあるため、広報にも力を入れているといいます。

「家庭のことだからと相談をためらったり、家族だけで抱え込んだりする必要はない、ということを知ってもらえたら」

子育て中の介護について
相談したい、介護サービスが知りたい

介護の相談をしたいときは、介護対象者の居住先にある「地域包括支援センター」などを頼って。要介護者の家族からの相談を受け付けています。

地域包括支援センター

高齢者の介護、福祉、健康、医療などの総合相談窓口。各市町村に設置され、京都府内には127カ所(※)あります。
※ブランチ(地域包括支援センターと連携した相談窓口)など含む

高齢者情報相談センター

高齢者の生活、介護にまつわる各種相談窓口を、内容に応じて案内してもらえます。

問い合わせ

TEL:075(221)1165

介護のために一時的に
子どもを預けたい

親の病院の付き添いなどで短時間、子どもの世話をお願いしたい。そんなときは、各市町村の子育て支援「ファミリーサポート事業」の利用を。

ファミリーサポート事業

子育ての援助を受けたい人(おねがいさん)が、援助したい人(おまかせさん)に有償で助けてもらう仕組みです。援助内容は、保育施設や学童保育の開始前・終了後の送迎や預かり、外出時の預かりなど。利用には会員登録が必要です。希望者は、市町村ごとに開設されている「ファミリーサポートセンター」で登録を。おかませさんに登録する場合は、講習会あり。

京都市の場合

利用対象

おねがいさん:京都市内在住または京都市に勤務している人で、満12歳までの子どもがいる人、または妊婦

問い合わせ

京都市ファミリーサポートセンター=TEL:075(682)6238

介護と子育ての負担が大きく、
休職・離職するか悩んでいる

仕事をしながらすべて担うには限界が。職場に相談し、「育児・介護休業法」で定められている両立支援制度を活用して。休業・休暇に関する相談窓口もあります。

育児・介護休業法

育児や介護と仕事が両立できるよう支援する法律。2025年4月の改正で、子どものけがや病気時に取得できる「子の看護休暇」が見直され、卒園式や入学式などでも休暇が取れるように。また、育児による残業免除や介護休暇の取得の条件が緩和されるなど、支援の幅が広がっています。

京都労働局 雇用環境・均等室

「介護休業が認められなかった」「降格され減給になった」など、育児・介護を理由とする職場での不利益やハラスメントの相談を受け付けています。

問い合わせ

TEL:075(241)0504
※府外に勤務している場合は、事業所を管轄する都道府県の労働局へ

(2025年7月5日号より)