文化財を守ること、引き継ぐこと

仏像は触れずに、目でチェック

千本釈迦堂大報恩寺
千本釈迦堂大報恩寺

かつては彩色が施されていたという十大弟子像。現状維持の考えから、塗り直しは行いません

千本釈迦堂大報恩寺

六観音像の一つ、千手観音。大切に扱われてきたため、指先も欠けずに残っています

歴史ある寺院には、さまざまな寺宝が残されていますね。千本釈迦堂大報恩寺の霊宝殿では、重要文化財をはじめとする寺宝を鑑賞できます。

数ある文化財でも目を引くのが、六観音像と十大弟子像。
「どちらも鎌倉時代の作品。6体全てがそろって残る六観音像は珍しいんですよ。十大弟子像も傷みや破損がなく、美しい状態で保存されています」とは、住職の菊入諒如(りょうにょ)さん。

「もとは本堂に安置されていて、1970年に霊宝殿へ移しました。本堂は一度も火事に遭うことがなかったので、堂内の文化財も無事に伝わったようです」

日頃の手入れが欠かせないのでは? そう尋ねると、「実は、私も国指定の文化財に許可なく触れることはできないんです」と菊入さん。
「手入れは専門の学芸員が担当します。良い状態で保存するには、むやみに触れないことが大切。その代わり、毎日異常がないかを目で確認します」

霊宝殿内の湿度は文化財の保存に適した60%に設定。照明は紫外線が発生しない発光ダイオード(LED)の電球を使うなど、霊宝殿内の環境整備もポイントです。
来年は約40年ぶりに、六観音像と十大弟子像のほこりを払う“お身拭い”が行われる予定。きれいな姿を見せてくれそうです。

大正期の雨戸を再現し、より趣深く

旧三井家下鴨別邸
旧三井家下鴨別邸

このたび再現された雨戸。「昔の仕様なので、扱いに少しコツがいるんです。拭き掃除をして手入れします」と石川さん。左のガラスが明治期に製作されたものです

旧三井家下鴨別邸

一般公開では1階部分が開放されています

これまでは門が閉ざされていた重要文化財「旧三井家下鴨別邸」の一般公開が10月からスタートしました。下鴨神社の南、京都家庭裁判所の隣に位置しています。

「明治期、木屋町通沿いに建てられた住宅を大正期に母屋として移築しました。当時も三井家ゆかりの邸宅を保存しようという動きがあったのでしょう」と、京都市文化市民局文化芸術都市推進室文化財保護課の石川祐一さん。

第2次世界大戦後には京都家庭裁判所が管理し、所長宿舎として利用。日常的にメンテナンスされてきたことが、現代まで傷まずに残った理由だといいます。
特に貴重なのが、室内の障子に取り付けられたゆがみのあるガラス。明治期の手法でつくられたため、割れてしまえば同様のガラスは製作できないのだとか。

「傷ついていないか小まめに確認し、来館者にも注意を促しています。見学の際、少し気を配ってもらえたらうれしいですね」

開館前、閉館後には、ガラスや床を拭くなどの手入れを行っているそう。開館時は空気がこもらないよう、1階だけではなく不定期で特別公開される2階、3階部分も雨戸が開けられます。
その雨戸は一般公開にあたり、大正期の木製の形式に復元。参考にしたというのは、昭和初期の様子を撮影した写真です。白黒写真ですが、雨戸の形はしっかりと写っています。保存に加え、当時の趣が感じ取れる工夫も行われていました。

出土したら、フリーズドライしすぐに保存処理へ

京都市考古資料館
京都市考古資料館

写真左の木簡や左下の人形代について、「崩れやすい木の形がしっかりと残っています。保存処理がされた証拠ですね」と竜子さん

昔の生活を伝える遺跡の中で、特に重要なものは国が文化財として史跡に指定しています。史跡などから出土した埋蔵文化財を展示している、京都市考古資料館へ向かいました。
「出土品は放置すると劣化をたどるばかり。発掘したら、すぐに保存処理を行います」と、京都市埋蔵文化財研究所の竜子(りょうこ)正彦さん。館内に並ぶ木製品、金属製品といった埋蔵文化財の保存処理方法とは?

「こちらに展示しているのは平安京跡から出土した木簡や、木で作られた人形代(ひとかたしろ)です。木の繊維を固める薬品に漬けた後、フリーズドライの機械を利用します」
フリーズドライといえば、インスタント食品に用いられる製法というイメージですが…。
「はい。少し意外に感じるかもしれませんね。機械で木製品を冷凍し、真空状態で水分を蒸発させます。木簡などに書かれた墨は熱に弱いので、加熱せずに乾燥させられるこの方法が適しているんです」

金属製品はさびを取り除き、さらなる酸化を防ぐのが課題です。
「さびを取り除き、その進行を防ぐ処理をして樹脂をコーティングしたら、湿度管理を行いながら展示、保管します」
それでもさびる場合があるので、小まめな点検が欠かせないそう。さびを見つけたら、再度処理が施されます。

出土品ごとに処理方法は変わりますが、全てに共通するのが修復はやり直しができるという点。
「今後、より適した処理法が開発される可能性もあります。コーティングには落として塗り替えられる薬品を使用。最善を尽くし、次の世代に引き継いでいきます」

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