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伝えていくための工夫、増えています これからの京都の“技”

伝えていくための工夫、増えています 
これからの京都の“技”

京都の長い歴史の中で受け継がれてきた伝統産業。でも中には、市場の変化や後継者不足で、その存続が危ぶまれているものも。せっかくの世界に誇れる“技”を次世代にも伝えていきたい─。そんな思いで行われている、さまざまな動きを紹介します。



「息吹」の前にて。右から、葛原健太さん(木工芸)、長井浩さん(陶芸)、高橋博樹さん(木工芸)、直原弘和さん(木工芸)。「将来的には、南丹市をものづくりのメッカにしたい。街の人はみんなものづくりの経験があり、見る目をもっているというような街になれば」と高橋さん

伝統産業の新しい芽を育てる、
その土壌作りから

NPO法人 京都匠塾


昨年5月の本紙「京都の職人の現在」でも若手育成の場として紹介した京都伝統工芸大学校。同校の卒業生・高橋博樹さんが06年に立ち上げたのが「NPO法人 京都匠塾」です。
「就職活動をしてみて、みんなこの業界のしんどさを思い知りました。いくら若手職人という種が生まれても、それが育つ土壌がないと芽が出ないということを痛感して。職人は内向的とされてきましたが、これからは自力で営業や発信をしていかなければやっていけない。だから発表や販売の場のマネージメントを自分たちでやろうと立ち上げたんです」(高橋さん)。
高橋さんの呼びかけに、同級生の半分以上が賛同。同校へのオファーを譲り受ける形で行った東京のデパートの催事での実演販売を皮切りに、ホテルロビーでの作品展示など、さまざまなイベントを実施。「縁あって、商業施設内に店舗を構えていたこともあります。現在は北区紫竹にアンテナショップ『工藝百職』を持ち、匠塾会員の作品などを販売しています」。07年には同校と同じ南丹市内に共同工房「息吹」を開設。今年初夏には、隣にギャラリーを作る計画もあるのだとか。

「ツ・クール」でテーブルを作る子どもたち。「体験教室では、ものづくりで大切なのは、使う人のことを考えるということだと言っています。相手の気持ちを考えられる人になってもらいたいという気持ちも込めて」(高橋さん)

教育の大切さを実感

「活動を通して、やはり教育から手をつけないと土壌は育たないなと気付いたんです。現在は、子どもたちにものづくりの楽しさを知って、見る目を養ってもらおうと、小学校への体験教室に力を入れています。同じ茶碗を見るのでも、作ったことがあるかないかでは視点が全然違ってきますから」
本年度からは、小学校高学年を対象に「ツ・クール」という教室も始めました。「勉強することに疑問を持ち始めた子に、勉強の意味を知ってもらうための教室です」。1時間目は国語か算数の学習。その後、陶芸や木工芸を行います。「工芸タイムでは、さっき習った計算方法が寸法を割り出すときに生かせたりするよう、関連付けて行っています」
「息吹」のホワイトボードには、今後のプロジェクトがびっしり。アイデアいっぱいの匠塾の今後に注目です!


京都ゆかりのデザイナーに依頼して作られた試作品

友禅の技術の応用で
繊細で丈夫な革染めが実現

丸保の「友禅レザーコレクション」


「丸保」は、和装の卸問屋。同社が新しく手がけたのが、友禅染めの革製品です。「ナゼ革製品?」と不思議に思う人もいるかもしれませんね。「絹も革も天然素材で、使う染料も似ており、ぬれると色落ちしてしまいますね。そこから、友禅の染めの技術を革にも使えないかと発想したのです」と同社社長・奥田直幸さん。
同社では、乾式転写染色技法を革に適用。「友禅は、色を定着させるために“蒸し”という高熱の工程を経るので、革も蒸してみたのですが、変色してゴワゴワになって、まさに失敗でした。でも色はしっかり定着していた。そこにわずかな希望を見いだしたのです」と同社取締役・吉田泰義さん。
革の専門家に笑われたり、あきれられたりしながら失敗を繰り返したそう。「私たちは革に関しては全くの素人ですから。先入観というものがなかったわけです。それがかえって良かったのかもしれない」と吉田さん。

奥田さんが手にしているような、繊細な色のグラデーションも実現。「写真の転写も可能です」

1年半の試行錯誤を経て、とうとう思い通りの革染めに成功。最後に高温で蒸し、柄を定着させることにも成功しました。「これまでの方法は革に色を載せるだけでしたが、この新しい方法は染色結合が強いために、こすってもとても色落ちがしにくいです」と奥田さん。樹脂でコーティングする必要もないため、“素革”の柔らかな風合いも保たれたままです。
「技術だけではなく、友禅という美しいものを手がけてきた私たちならではの、美しいものづくりという精神もこの革製品に踏襲したい」(吉田さん)。「そのため日本に限らず海外進出もにらんで、現在、国際特許の申請中です」と奥田さん。伝統の技を生かした新しい技術の誕生ですね!



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